十四歳:パウンド【暴力的アナザーワールド(もしも「あの野郎」に天罰を下していたら)】
前回とはまたちょっと違う、パラレルワールドのお話です。
「はあ、はあ、はあ……。もう、疲れたよ……」
「大丈夫か楓。ほら、これを食べろ」
私は、懐から小さなパウンドケーキのカケラを妹に差し出した。
「お姉ちゃん、これは……?」
「さっき通ったケーキ屋の残飯入れからくすねてきたものだ」
「……ありがとう、お姉ちゃん……」
「なにしてる二人とも、サツがもうすぐそこまで来てるぞ!」
「今行く! ……ごめんな楓、せっかくの十四歳の誕生日なのに、こんなことになって……」
約九年前、私が「あの野郎」に襲われていたとき、私と母は勢いで「あの野郎」を殺してしまった。私と母はその頃まだ幼かった妹の楓を連れて、逃亡生活を続けてきた。今は、いりくんだ路地に身を潜めている状態だ。
「……いいの。……もう、大丈夫。歩けうっ!」
パウンドケーキを食べ終わった妹が立ち上がろうとした瞬間、なにかが破裂した音とともに、妹が倒れた。
「フッフッフ……。ようやく見つけたぞ。蔵梨麻子、蔵梨邑、蔵梨大殺害の容疑で逮捕する」
脚から血を流す妹。そして、建物の陰から現れたのは、煙をあげている拳銃を持った初老の男性。
「殺人犯という害虫は、この我が輩が駆除する」
「だからって、なにもしてない娘の脚を撃っていいのかよ!」
母が、激昂する。
「害虫の戯言などに聞く耳は持たないのが我が輩の流儀だ。たとえどんな事情があろうとも、人が人を殺していい理由にはならなァい……。世界の全ては、法により管理されるべきなのだァァァっ! 法こそ絶対的な存在。完璧で崩れることのない、至高の産物……! 覚悟しろ。この我が輩が正義の名のもとに、貴様等犯罪者を連行する!」
初老の男性の声が、狭い路地にこだました。
邑先生と麻子さんがあの野郎に天罰を下した世界→まともな生活が送れなくなる→邑先生は星花女子に配属されないうえ、楓ちゃんが星花女子に通うこともない→智恵さんが邑先生に、墨子さんが楓ちゃんにそれぞれ出会えない→誰も幸せになれない。