十五歳:シフォン【閉鎖的アナザーワールド(もしも姉と仲良くできていたら)】
前回とはまたちょっと違う、パラレルワールドのお話です。
私は、型からシフォンケーキを慎重に取り出し、三つの皿に盛りつけた。
「おい、できたぞ。ゲームはもうやめろ」
テレビゲームに興じている母と妹に向かって、声をかける。
三人全員が揃ったところで、手を合わせる。
今日は、妹の十五歳の誕生日だ。
「……おめでとう、楓」
「……ありがとう。いただきます」
「ああ」
既にいただいていた母をよそに、妹はきちんと両手を合わせてからケーキを口にした。
「……おいしいよ、お姉ちゃん」
「……そうか、それはよかった」
無表情ながらも、舌鼓を打ってくれる妹の楓。あまり笑顔の得意でない私だが、妹に料理を褒めてもらえると毎回のように口角が上がってしまう。
「……そうだお姉ちゃん、来年からのことなんだけど」
「……決めたのか……?」
「うん。悩んだけど…………お姉ちゃんが勧めてくれた通信制高校に通うことにする」
常々、私達姉妹の間で話題になっていた。
公立であれ私立であれ、全日制の高校に進学するのはやめた方がいいんじゃないかと。
というのも、妹は小学校と中学校で姉の私とひどく比べられていたのだ。妹はそれに対して居心地の悪さを感じ、私はそれに申し訳なさを感じていた。また、こういった噂話が拡散されることで、私達の居場所が「あの人」の耳に届いてしまうおそれがあった。そうなれば、私達姉妹にも、母にも、被害が及んでしまう。それだけは、なんとしても避けたかった。
私は、通信制高校に通うか、もしくはこのまま実家で過ごし、専業主婦になってもらうか、この二つの選択肢を妹に提案した。
その答えを今、妹は口にした。
「……そうか。まあ、あそこは男性職員ばかりだから、あの人の仲間に出くわす可能性も低いからな。……わかった」
私としては、外の世界に出ない方が危険も少ないと思っていたのだが……。愛する妹の決めたことだ。妹の意志を尊重しよう。
「ということで麻子さん、前にも言いましたけど、貯金から楓の学費出していいですよね?」
「もぐもぐ……勝手にしろ」
「じゃあ勝手に」
「……お姉ちゃん」
「どうした……?」
「いままで、迷惑ばかりかけていたけど、わたし……もっとお姉ちゃんの手助けがしたい。だからたくさん勉強して、お姉ちゃんに釣り合う人間になりたいの。お姉ちゃんのこと、尊敬してるから」
「……ありがとな、楓」
◆
ケーキを食べて、二人でお風呂に入って、寝室でしばしのリラックスタイム。母はとっくに寝てしまったようだ。
布団の上で座りながら携帯でニュースのチェックをしていると、不意に横で児童用文庫本を読んでいた妹が私のパジャマの裾をぎゅっと掴んできた。
「……どうした?」
「……怖く、なったの。もしお姉ちゃんがいなくなったらって」
読んでいた文庫本に、怖い表現でもあったのだろうか。妹の手は、小刻みに震えていた。
「……大丈夫だ。私はいなくならない」
「ほんと?」
「ああ」
私がそう答えると、妹は私の体に自身の体を密着させてきた。
「絶対だよ……」
「ああ、約束する」
そっと、妹の頭を撫でる。
「……お姉ちゃん」
「楓……」
見つめ合う、私と妹。
お互いの唇が、少しずつ、近づいてゆく。
邑先生が楓ちゃんの作った折り鶴によって心を開き、仲直りした世界→倉田姉妹の仲がよくなる→倉田家でしっかりとコミュニケーションがとれて、会話をするようになる→楓ちゃんが星花女子に進学しない→姉妹百合が完成する→邑先生は星花女子に配属になるものの、智恵さんとお付き合いしない(「既に大切な人がいるから」という理由で智恵さんの告白をお断りする)→智恵さんと墨子さんがかわいそうなことに。