二十歳:パン【絶望的アナザーワールド(もしも姉に恋人ができていなかったら)】
今回は本編とはちょっと違う、パラレルワールドのお話です。
お腹が、すいた。
お母さんがクッションを枕代わりにして眠っているのを確認すると、わたしはこっそりと冷蔵庫の扉を開けた。
……食べ物。なにか食べ物……。
「……ない。ない。ないないない!」
観音扉を閉めて、野菜室、冷凍庫、と順番に見ていくが、食べ物はなにもなかった。
ヒモを始めて、二年目の夏。
なんとかギリギリで高校を卒業したものの、驚くほど不器用なわたしは、進学も就職も叶わなかった。
最後の希望だったアルバイトも、全て……。
こうしてわたしは、二十回目の誕生日を実家で惨めに迎えることになった。
◆
「……ない。ない。ないないない!」
玄関の扉を開けて聞こえてきたのは、愚妹の半狂乱の声だった。台所に足を踏み入れると、そこには穀潰しの妹がいつものように冷蔵庫の中を漁っていた。しかし当然、昨夜のうちに中身を全て処分した冷蔵庫には、なにも入っていない。
私は居間で母が「眠っている」のを確認すると、妹の肩を叩いた。
「お、お姉ちゃん……。ねえご飯! ご飯はどこ!? ねえったら!」
私の存在に気がついた妹は私の着ているツナギを握りしめ、ご飯をねだってきた。あれだけ私のことを憎んでいた妹が、今ではこの有り様だ。私が働いて収入を得て、身の回りの世話をしてやらなければ、生きていけない。
私はツナギのポケットからラップで包んだバースデーケーキ代わりの手作りパンケーキを床に放り投げると、妹は狂ったようにラップごと頬張りだした。妹は、ひとりでラップも外せない。
私は、流し台の上で洗って乾かしていた牛乳パックを見つめた。消費期限の欄には、三年前の日付が刻印されていた。
「……これから生きていく希望もない。将来性のないお前達を養っていく自信もない。……疲れたんだ、私は。もう、誰も愛せない。みんな………………嫌いだ」
私は、ポケットに忍ばせていたもうひとつのパンケーキを口にした。
邑先生と智恵さんがお付き合いしなかった世界→邑先生の心の闇は解消されないまま→楓ちゃんの心の闇が晴れるきっかけとなるイベントが発生しない→(心の)死