十六歳:ショート
今回は、本編と同じ世界観です。
「ど、どうぞ……!」
「……」
わたしの恋人で同棲相手の楓ちゃんは、わたしが作ったものを見て、沈黙しました。
「あ、あの……」
「……墨子」
「は、はいっ!」
「……こんなに大きなケーキ、食べきれない」
「す、すみません。張り切って、大きく作りすぎちゃって……」
「……そう」
わたしが楓ちゃんの十六歳の誕生日に作ったのは、ホールのイチゴショートケーキ。それも、二人で食べるにはかなり大きな五号サイズ。
わたしはそれをナイフで取り分けて、ひと切れ分を楓ちゃんの目の前のお皿に盛りつけました。最後に、チョコペンで「Happy Birthday」と書いたチョコプレートをのせて。
「めしあがれ」
「……いただきます」
フォークを使って、一口分をはむり。
「ど、どう、ですか……?」
「………………おいしい」
無表情で、小さく発せられた感想。それをわたしは聞き逃しませんでした。
「本当ですか!? よかった……」
ホッと胸を撫で下ろして、わたしも自分の分を盛りつけて、一口。
とろりと口の中で生クリームが溶けて、スポンジと調和します。そこにイチゴの酸味が、アクセントになって……。
ただの自画自賛かもしれません。
でも、大好きな人に自分の料理を褒めてもらえて、一緒に食べられているこの時間が一番のエッセンスだということは、確かです。
まだ同棲を始めて日も浅いですが……。
わたしの料理で、楓ちゃんの「好き」が増えたらいいな……と、わたしは心の中で、そう呟きました。