クリーニング
懺悔室で、男が1人、顔の前で両指を組んで泣いていた。
「神父様、私は罪を犯しました……」
聞けば男は、ひどい酒乱で、散々暴力を振るい、
挙句に借金をこさえ、女房子供に愛想尽かされ
逃げられたそうだ。
「私にはもう何も残っていません。
どうか、私をお救いください!
もう2度とこんな生き方をしないように、
私を、清めてください!」
神父が尋ねた。
『それは本心ですか?』
「もちろんです!」
男は涙に濡れ、その目は後悔に溢れていた。
神父は静かに目を閉じ、天を仰ぐ様な仕草をした後こう言った。
『どうぞこちらへ……』
神父は男を奥の部屋へ案内した。
そこには見たことのない程大きな
ドラム型洗濯機が置かれていた。
「あの……」
困惑している男に向かって、神父は
『どうぞ中へ』と促した。
躊躇しながらも、洗濯機の中へ入る男。
扉は閉められ、おもむろにドラムが回転を始める。
グォングォン……
重たい音と同時に注水がスタートする。
ゴボッ、ゴボゴボゴボッ
男は、鼻からも口からも水を吸い込み、
目を白黒させている。
やがて意識を失った。
と同時に男の姿が洗濯機の中から消えた。
***
目を開けた男の視界に、眩しい光が飛び込んで来た。
細めた目で周りを確認しようとするが、うまく首が動かない。
自分の顔を、2人の男女が満面の笑顔で覗き込んでいる。
『誰だ?こいつら?』
「あらぁ、お目々が覚めたの?」
女が甘ったるい声で言った。
「神様っているのね……」
「本当だね。子供のいない僕達に、こうして子供を授けてくださった。
見てごらん!天使みたいだよ」
男の方も、何だか訳の分からない事を言っている。
男は自分の手を見つめた。
小さな小さな握りこぶし……
明らかに男の手ではない。
『そうか。あのデカい洗濯機……
あれで俺はクリーニングされたんだ』
微笑んだ男の意識が再び薄れて行く……
クリーニングされた男の、新たな人生が始まった。
終
【奇妙な日常】楽しんでいただけたでしょうか?
5選ということで、これで完結です。
最後まで読んでくださってありがとうございます!