不思議な冷蔵庫
我が家の年代物の冷蔵庫が、とうとう壊れた。
中の物が全く冷えない。
冷蔵庫の役目を果たせなくなってしまった。
と言って、新しい冷蔵庫を購入するのは厳しい。
年齢:20才
性別:女性
職業:学生
そして万年金欠……
こんな私にとって、これは実にまずい事態だ。
一縷の望みをかけて、私はリサイクルショップへ赴いた。
おぉー!あるじゃない‼︎
狭い我が家にぴったりサイズで、小綺麗な子が……
中を開けて確認してみる。
うん、うん。
あんまり使われてない感じ……
しかも格安‼︎
私は一目惚れした、その冷蔵庫を購入した。
***
数日後、冷蔵庫が配送されて来た。
早速 中を確認……
あれ?何かヒンヤリしてる?
「あのー……これ電源入れたりしました?」
『いいえ』
配送のお兄さんは訝しげに私を見た。
「ですよねー……」
取り敢えず、買い物……
私は近所のコンビニで買って来た牛乳とアイスを入れるべく、
再び冷蔵庫の扉を開いた。
「えっ⁉︎」
私は声を上げた。
何で?何で、買ったばかりの冷蔵庫に食品が入ってるの?
そう。すでに卵や、ウインナー、お肉、野菜など、しっかり
中に詰まっているのだ。
賞味期限も大丈夫。
何かのサービス?
私は、恐る恐る卵を取り出し、目玉焼きにして食べてみた。
何の問題もない。
美味しい。
それからというもの、どういう訳か、
食材が無くなりそうになると補充される、という状態が続いたため、
私はそれらを有り難く頂戴した。
食費は浮くし、買い物に行く手間も省ける。
そんな夢の様な日々が、一月程続いた。
バイトを終え、帰宅したある夜……
お隣の住人さんが、フラフラとドアを開けて出て来るのに出くわした。
「こんばんは」
私が声を掛けると、その男性は、
私の顔を見ながらヨロヨロと倒れ込んでしまった。
「キャー!どうしたんですかっ⁉︎」
その人は、青い顔で返事もできないようだ。
私は救急車を呼んだ。
隣人のよしみで病院へ付き添った。
お医者さんが私に言った。
『栄養失調ですね』
「はあ……」
『しばらく入院が必要ですが、まあ大丈夫でしょう』
栄養失調って……
あの人、そんなに貧乏なのかしら……
私は、彼の病室を見舞った。
『あ、どうもすみません……ご迷惑をおかけして……』
「いえ……あの、ご飯食べてらっしゃらないんですか?」
『ああ……その……おかしな話なんですが、冷蔵庫の中の物が
買っても買っても無くなっちゃうんです』
「はあ⁉︎」
『本当なんです。週末にストックした物が全部、どこかへ
消えちゃうんです』
「そんなバカな…… あっ‼︎ 」
私には思い当たる節があった。
私がこれまで美味しく頂戴していた食材達が全て、
彼の冷蔵庫の中のストックだったとしたら……?
「それって、いつ頃からですか?」
『んーー……1ヶ月くらい前かな?』
ドンピシャじゃないか。
私は、今まで自分の身に起きた事を隣人さんに話した。
数日後、退院した隣人さんと共に、彼の部屋に向かった。
目的は《確認》のためだ。
一緒に彼の冷蔵庫に牛乳を入れ、ドアを閉めた。
次に二人で私の家の冷蔵庫の前に立った。
「開けますよ」
『はい』
二人で同時にゴクリと唾を飲み込んだ。
開かれたドアの向こうには、たった今、隣で見た牛乳が……
私は言った。
「お詫びと言うのも変ですけど、これからウチで夕飯
食べませんか?もちろん、食材は私が用意するんで……」
『でも、それじゃあ悪いし……』
「いえ。知らなかったとはいえ、このままじゃ私、
泥棒になっちゃう」
私は少し涙目になった。
隣人さんはその顔を見て微笑んだ。
それから隣人さんと私は、一緒に夕食を食べるようになった。
喜んで食べてくれる人がいると、作り甲斐がある。
でも、2人分の食材を入れるには、この冷蔵庫少し小さいなと
思い始めた。
隣人さんが、新品の冷蔵庫を買おうと言ってくれた。
冷蔵庫は再び、リサイクルショップへ帰る事になった。
私と隣人さんを繋いでくれた不思議な冷蔵庫。
きっとまた、素敵な出会いを繋ぐため、
誰かの元へ行くのね……
お別れの日、私は冷蔵庫と熱い抱擁を交わしたのだった。
終
今回5作品の中で一番気に入っている作品です。
最後まで読んでくださってありがとうございます!