自由へ
「いや~、ごめんごめん!久しぶりに初心者さんを見たからね、久しぶりにお約束を言っちゃったよ!!」
当たり前な反応をした二人組に事情を説明してやっと納得してもらえたようだ。
「レベル1は久しぶりに見た・・・」
赤髪の青年の後ろに隠れながら少女がつぶやく、無理もない、自分で言うのも情けの無い話だが変質者がここにいるのは確かだ。少しタイトな短パンのような形状をしている下着だということが唯一の救いだろうか・・・。それでも下着であることには間違えは無いのだが。
「申し訳ないが、服を貸してくれないだろうか?ゲームを起動したらいきなり裸でな。このまま話をしてもかまわないんだが、その子に悪影響だろう?」
そう言って少女の方を見るがますます隠れてしまった。
「ああ!そうだね!ちょっと待ってくれ、君のレベルでも装備できるものがあったはず。君の≪ジョブ≫はなんだい?」
「ジョブ?すまない、全くの初心者なんだ。一から教えてくれると助かるんだが・・・」
数回でもゲームをやったことのある人ならば分かるのであろう話をされるが、こちらからしてみると何のことか分からない。相手の親切心に頼り切るしかないのだ。
「なるほど、完全な初心者なんだね!まあ、任せて!そのために僕たちがいるからね!」
白い歯を見せながら満面の笑みを浮かべる、どうやらかなり親切な人といきなり出会えたようだ。知らない土地で人に助けられて事のある人の気持ちが、少しだけだが分かったような気がする。
「まず右手の薬指に指輪があるだろう?その宝石部分を触ってみてくれ」
右手を見ると確かに指輪がはめられていた、つけている事を指摘されて初めて気が付いた、薬指を見ると細いリングに小さな黒い宝石がはめられていた。言うとおりに宝石に触れるとまるでパソコンのウィンドウのような画面が目の前に現れた。
「うお!・・・すまない、つい声が出た。」
「ははは!気にしなくていいよ、僕もはじめそんな感じだったから!」
そういいつつ俺の後ろに回り込み肩越しに同じウィンドウ画面を見る、一緒に少女もついて青年の後ろに回っていた。まるで小動物か何かのようで愛らしかった。
「はは~ん、シーフか。名前は祐志?もしかして本名を登録しているのかい?でもメニュー画面の開き方を知らないってことは、はは~ん!変な中古品をつかまされたね?まぁ、よくあることだから心配しなくていいよ。」
何やら一人で疑問に思っては解決したらしいしきりにうなずいては肩を叩かれる、まぎれもなくこの祐志は俺の名前なのだが、改めて説明はしなくても良いだろう。青年もメニュー画面を呼び出し手慣れた手つきで何かを操作している。その間にもう一度指輪を触ると音もなくメニュー画面が消えてしまった、思わず驚いて体が少し動いてしまったのだが、今度は青年ではなく後ろの少女に笑われてしまった、しっかりとみられていたらしい。
「はい!これが君の装備一式だよ!まずはお近づきのしるしにこれをプレゼント・フォ~ユ~!」
やけに高いテンションで衣服と短剣を渡される、なぜか少し光っているような気がしたがとりあえず手に取る。その瞬間つかんだはずの服たちが消えてしまった。
「うお!・・・いや、すまん。どこに行ったんだ?」
思わず下を見るがそこにはあるはずもなく狐に抓まれたような感覚だった。
「分かる!僕も同じリアクションだった!!もう一度メニューを出してごらん?装備一覧にさっき渡した装備品があるはずだよ。」
言われるがままにもう一度指輪を触る、装備品欄をタッチすると確かにもらった服と短剣があった。装備コマンドをタッチすると一瞬で裸だった体に服が着させられた。さすがに驚き疲れて今度は声を出すことは無かったが、目の前の青年は俺の新鮮なリアクションが欲しかったようで少し残念そうだった。
「これで君もエンデジェンの冒険者だ!おめでとう!」
そう言って手を差し出してくる、屈託のない笑顔でこちらを見て握手をせがんでいるようだった。彼には警戒する必要は無いだろう、手を取って数回振る。意外にがっちりとした温かい手がリアルに感じられた。
「ありがとう、助かったよ。そういえば名前をまだ聞いていなかったな、助けてくれた人の名前くらい教えてくれないか?」
「そういえばまだ名乗っていなかったね!僕の名前はキーアだ!もしよかったらこれから君にいろいろ教えたいんだけど良いかい?」
「助かる、何もわからずに困っていたところだ。サポート役は全く役に立ってないからな。」
つい口に出てしまった、何のことか分からないだろうが、それでも笑顔を崩さずに首をかしげていた。
「いや、すまない。こっちの話だ。」
「ちょっと・・・」
服の裾を引っ張られて少女の存在を思い出す、改めてみるとこんなあどけない少女もゲームをプレイしているのかと気づかされる。俺の身長だと膝をついてやっと目線が合う、覗き込んだ眼は大きな水色でとても綺麗だった。
「言っておくけど、女の子のアバターだからって何をして良いわけでもないからね?」
何も言わずに顔を見つめていたのが怪しまれたのだろう、咳払いをしつつ俺にやんわりと注意し始めた。
「すまない、こんな子供もこんなゲームしているなんて知らなかったからな。よろしく」
そういいつつ少女にも手を差し出す、警戒されるのも無理はないが、ちょっと握るだけの握手だけでもしてくれただけ良かったと思うことにしよう。すぐにキーアの後ろに隠れてしまったが、どうにか機嫌を取り戻せるようにしなければ印象は裸の変態で止まってしまうだろう。
「ごめんね、彼女は人見知りなんだ。彼女の名前はレイン。言っておくけど子供のアバターだからって中身も子供とは限らないよ?」
「そうなのか?キーアは何歳なんだ?」
それとなく聞いたつもりなのだがゆっくりと首を横に振られる、まずいことでも聞いてしまったのだろうか。
「オンラインゲームを楽しむ方法の一つ!年齢はお互いに聞かない!」
「は?なんだそれは?」
「ゲームは友達とやるものだろう?せっかく友達が出来たのに年齢を聞いて年上だったら敬語を使って、他人行儀なんて楽しくないじゃん!」
どうやら彼の中ではもう俺は友達になってしまっているようだ、ずうずうしいと言われてしまいそうだが子供のように無邪気な笑顔を見せてくる彼にはNOと言える人間は全くいないだろう。後ろからキーアを見るとよく分かった、キラキラとした瞳で見上げている。
「だから!ゲームで敬語はダメだ!同じゲームをやる者同士同じ立場の人間なんだからね!あっ!でもそれは僕たちの中だけだからね!」
「ああ、分かったよ、すまなかった。とにかくよろしくな」
キーアは満足げに腰に手をやる、後ろではまるでヒーローにあこがれている子供のように見上げている少女がいた。
「ところで、こんなへんぴな所で何をやっていたんだ?」
「よくぞ聞いてくれました!僕たちはギルド『アリエス』の活動でここにいるんだ!」
いつの間にかキーアの後ろにいた少女はキーアの横で同じように腰に手を当てて誇らしげな表情で仁王立ちをしていた、その表情に思わずこちらも笑ってしまう。
「私たちは初心者の人のためにこのゲームの面白さを伝える活動をしてるの!」
俺が笑ってしまったことに少し怒ってしまったのだろう、ムッとした表情で半ば叫ぶように言われてしまった。
「そう!このゲームは面白いのに一緒にやる人がいないとか、どうしてもうまくなれないとか・・・。そういった理由で辞めてしまうプレイヤーが多くてね、初めてすぐなのにやめてしまうのはもったいないだろう?だからそんな人たちのために僕たちがナビゲートしてこのゲームの良さを知ってもらうという活動をしてたんだけど・・・」
初めは勢いよく宣言していたのだがだんだん勢いが無くなりしおらしくなってしまっている、先ほどまで見せていた笑顔もなくなり、隣にいた少女も落ち込んでしまっている。
「ログアウト出来なくなっちゃうし、新しいプレイヤーも来なくなっちゃうし。こんな騒ぎでギルドメンバーは次々抜けちゃうし・・・ギルド解散の危機だよ・・・」
二人とも体育座りで地面に座り完全に意気消沈していた、このゲームを純粋に楽しんでいたのだろう、こんなことになっても諦めずによく活動を続けられたものだ。少し同情してしまう。
「そう落ち込むな、おかげで俺が助かった。」
「そう言ってくれて助かるよ、そうだ!!」
勢いよく立ち上がり俺の肩を両手でつかみかかる。何を思いついたのだろうか嫌な予感がする。
「僕たちのギルドに入ってくれないか!!」
真剣な顔でこちらの目を見ながら頼み込んでくる、どうも断りづらい雰囲気だ。肩だけではなく着ている上着にも掴まれる感触がしてしてを見ると、まるで捨てられて子犬のような目でレインがこちらを見上げていた。この目に見られて断る勇気は持ち合わせてなかった俺は、首を縦に振るしか答えが無かった。