1年ぶりのおはよう
問題のゲームに行くまではまだかかります、この時点で書くのが楽しすぎてまだまだ本題に行くのがかかりそうです・・・
一話からちょっとずつ、書き換えています。続きを読んでいて話のつながりが曖昧になっている部分も(できるだけそのようなことが内容に気を付けますが・・・)あるかもしれません。
かなり時間がかかってしまっているので、気長に待っていただけるとありがたいです。
また、不鮮明な部分や誤字脱字等ありましたら報告していただけると大変ありがたいです。
目の前に閃光が走った。
いや、頭の中にと言ったほうがいいだろうか、その一瞬で目が冴え、薄暗い部屋の中で白衣に身を包んだ女が近くをうろついているのが視界の端に見えた。
「実験は失敗、脳波に反応は見られるものの被験者はいまだ目が覚めず・・・」
そう言いかけたところで俺と目が合った。大きな眼鏡の向こう側では真っ赤に充血した目が大きく見開き、短く切られたボサボサ頭を掻きながら、鼻同士がくっつきそうな距離まで顔をグイッと近づいてきた。しばらく寝ていないのだろう、目の下には薄暗い部屋の中でもはっきりわかるほどの濃いクマがついていた。
「訂正する!実験は成功だ!!やはり前々回の電圧から少し上げるのが正解だったようだ!そうなると前回の電圧は・・・」
文字通り目と鼻の距離のまま、俺の顔を触りながら。ボイスレコーダーに大きな声でまくし立てていた。その女をどかせようとするが、腕に力が入らなかった。いや、腕だけだはない。指一本動かすことはできなかった。
「どうしたんだい被験者君?」
やっと興奮から覚めた様子―だがお互いの距離は相変わらずだが―で、ニヤニヤと笑いながらしゃべりかけてきた。何とか話そうとするが、口も動かないことに気が付いた。小さなうめき声を出すので精いっぱいだった。
「状況は深刻だよ?まぁ、お互いにね・・・。しゃべれないんだろう?それもそのはず。君は今、この瞬間まで意識不明の、全身不随状態になっていたんだ、今、この瞬間までね。」
女が俺の顔を両手で包み、横にずらす。驚くことにその感触も伝わらなかった。
おかげで、ようやく女の顔以外を見ることができた。女は車いすに座り、俺の顔がよく見える位置まで移動した後、改めて俺の顔を覗き込んで、話し続をけた。
「まず、簡単な質問をする。イエスだったら瞬きを2回。それくらいはできるように調整しておいた、ノーは・・・まぁ君には断ることはできないから、良いとしよう。さぁ、まずは一問目、君は軍の特殊部隊にいたね?」
俺は瞬きもせず、じっと女を見やる。
「答えない・・・か、まあいい。続いて二問目、君はなぜこうなったか覚えていないね?」
俺は少し眠る前を思い出す。頭がぼんやりとして、ただ漠然と俺は今までの人生で。何か後ろめたい事と、人を守ることをして来た。そんな気がする。気がするだけなのだが、なぜだか確信が持てた。
自分の事に少し違和感を感じながら、瞬きを2回する。そうかい!!そう言ってその答えに満足したのか、女は大きく首を縦に振りながら、その勢いでずり落ちた眼鏡を両手で直した。
「ではでは最後の質問だ!、今君の目が覚めているのは、私の装置があるからこそだ。このまま目を覚ました状態でしかも!起き上がって自由に歩き回りたくないかい?」
目の前の女が、全く何を言っているのか分からない。女の目を睨み続ける。
「状況がまだわからないのかい?つまり、君は私がいなければ、二度と起き上がれることができないんだよ、言うことを聞いてくれるね?」
少しだけ、考えてみる。だが、考えてみたところで。何も思いつかなかった。
「信じたくない気持ちもわかるが、全部本当のことだ、さらに言うと一度この装置の電源を切ってしまうと、君がまた目を覚ます確証は無いんだ。あぁ、初めからこれを見せておけばよかった、君が意識不明になったのは。約一年前の2025年だろう?そこは覚えているはずだ、次にこれを見てくれ。」
そう言って女が笑いながらスマホを出してきた。そこには2026年と、確かに表示されていた。
自分がこうなる前はどうだったろう?ボンヤリする頭を無理やり働かせて、思い出す。
暗い部屋の中で、ニュースを見ている記憶を思い出すことが出来た。そこには確か、2025年と画面に表示されていた。ような気がする。
スマホから視線をずらすと、壁にかかってるカレンダーに気が付いた。そこには2026年と書かれていて、何を信用すれば良いのか分からないが。とりあえず、信用するフリをすることにした。
俺は瞬きを2回する、彼女は満足した様子で、また何度も頷いた。
「そうかい!そうかい!それでは私の言うことを聞いてくれるだろう?そうだよね?」
またニヤニヤと笑いながら、話しかけてくる。向こうのペースに乗せられるのは癪だが、ここは我慢するしかないだろう。
女が俺から離れ、机の上のパソコンまで移動する。これを見てくれ、と初めて女の顔から笑みが消え、急に真剣な顔つきになる。
「これは君が意識不明になった後、一週間後の画像だ。オンラインゲームである『エンデジェン』をプレイ中のプレイヤーが、突然ログアウトしなくなる、という非常事態が起きた。被害者は約五万人、戻ってきたものはその中の100人ほど。いずれもそのプレイヤーたちは敵に殺された、と証言してる。」
パソコンの画面には、大量のベッドが並べられていて、そこに寝ている人たち。その寝ている人たち全員が、首筋からコードが伸びており。小さな機械に接続されていた。それは、テレビなどでよく見る患者の心電図を見る機械にしては、かなり小さいものだった。
「国も色々手を尽くしているようだけれども、何の成果も得られてい無いようだ。そのおかげで、プレイヤーはまだゲームの中にとらわれている。次にこれを見てくれ。」
彼女がキーボードを操作して別の画像を映し出す。人の首筋だ。そこには、シールのような薄っぺらい装置が付いており。人の指ほどの太さのコードが繋がれていた。
「首筋に付いている装置が見えるかい?これは私の開発したデバイス、『アヴェリン』。この装置は首筋に張り付けられ。脊髄の神経に微弱な電気信号を流し、脳に直接映像を見せることが出来る。それに接続されている隣の装置が、ゲーム機本体だ。」
女がまたキーボードを操作すると、パソコンの画面が小さな機械を表示した。どうやらこれが、問題のゲーム機らしい。この画像だけ見てもそんなものには、全く見えなかった。
「ここまでは、理解してもらえたかな?」
どうやら満足したようだ、一息ついて俺を見る。どうやら、俺がまだ喋ることが出来ないことを忘れていたようだ。相変わらずくぐもった声にもならないものが、喉を通るだけだった。
「おっと!忘れていたよ、まだ君はしゃべれなかったね」
ニヤニヤと笑いながら、俺の隣にある装置に近づき、操作する。俺の隣にある物は画像で見たような小さな機械ではなく、かなり大がかりな物だった。
女が機械を操作し、それからすぐに、目の前にまた強烈な閃光が走った。
「うぐっ!」やっと絞り出せた声は言葉にならなかった。指をゆっくり動かしてみる、やっと体を動かせるようになったようだ。ぎこちないが、動かすことが出来た。
「体ももう動けるようになっただろう?」ニヤニヤと笑う女の顔が、俺の顔に近づく。やっと動かすことのできた手で、女の顔を離す。
つれないねぇ・・・と笑いながら素直に離れていった。
「話の続きをしてもいいかい?」
俺はやっと瞬きではなく、首を縦に振り返事をした。
「さて、話の続きだが。このデバイスは元々、体が不自由な人に作ったんだ。目の見えない人に視覚を。耳の聞こえない人に聴覚を。脳に直接五感を感じさせることで、それを可能にしようとした。それをとある会社に目を付けられてね。このゲームが開発されたというわけだ。」
話を聞きながら、自分の寝ていたベッドから体を起こす。一年間寝ていたと言われていたにしては、体は重くなく、すんなりと起き上がることが出来た。
「そのシステムを応用して君の目を覚まし、体を動かせるようにしたんだ。君の場合、脳に軽微の障害を受けているようだったから、少しだけ手間取ったけれど。私とは違って簡単だったよ。」
少し笑いながら、女が自分の足をさする。
「話を戻そう。」
そう言ってまた、パソコンを操作しようと目を移す。その瞬間を、俺は見逃さなかった。
女の喉を掴み、車いすから引きずりおろし、床に叩きつける。普通の女よりも一回りも二回りも細い首を地面に押さえつけながらパソコンのそばにあるペン取り。その先をを大きく見開いた女の目のすぐそばで止める。苦しそうにもがき華奢な指が首を押さえつけている腕をどかそうと力を込めてはいるが、それは弱々しいものだった。
さっきから俺に何をさせたいのか分からないが、俺に何かをしたことは分かる。この女はもう十分に喋っただろう。今度は俺が喋る番だ。
「今度は俺が喋る番だ、良いか?正直に喋るんだ」首を抑える指に力を加えると観念したようだ、苦しそうな顔を必死に縦に振る。
「良いか?少しだけ指の力を緩める、余計なことを言ったら、また首を絞めるからな?」おびえて涙をためている目で、こちらを見ながら必死に縦に首を振る。
「き、君が使える人材であるとメールが来てそれで実験台として私のところに来れるようにお膳立てもしてくれたんだ!それで・・・」咳き込みながら必死に説明するが、俺はまた指に力を加えて、女の顔を覗き込む。
「嘘を言うな、本当のことをしゃべるんだ。」また指の力を少し緩める。
「詳しくは私は教えられていないんだ!本当だ、パソコンに証拠がある!」と必死にパソコンのある机を指差す。
首をつかみ机の前まで移動させ、女の首を”優しく”膝で押さえつけながらパソコンを操作する。
先ほど女が俺に見せようとしていた、パソコンの画面にはゲームのロゴらしい。中世の騎士と、エンデジェンというゲームの名前が目に入る。
その騎士には出て行ってもらい、メールボックスを確認する。パソコンに隅に表示されている日付は、確かに2026年と表示されていた。
さほど時間はかからずに、問題のメールらしきものが見つかった。差出人不明のメールが何通かあり、分かりやすかった。内容を確認しようとメールを開いたとたん、パソコンの画面が暗転した。
「なんだこれは・・・?」マウスやキーボードを操作してみるが、画面は暗いままだった。
「は、離してくれ!」不意に、下にいた女から声が聞こえた。
「本体から煙が出てる!」
あわてて女から足をどけて下を覗き込むと、白煙が机の下に充満していた。
「ベッドの下に工具箱がある!早く!」女がそう叫びながら、本体のほうへ這いつくばって行った。ベッドの下を見やると、ネズミのような大きさまで成長している埃と一緒に、赤い工具箱が見えた。引っ張り出し女に渡す。
それから、さほど時間もかからずに女がハードディスクと一緒に机から出てきた。
「だめだ、完全に焼けているようだ。」片手には香ばしい香りのする、見るも無残な部品が握られていた。これで信用してもらえないね、残念そうに女がつぶやく。
うなだれる女を引き起こし、車いすに座らせ。俺はベッドに腰掛ける。
目の前の女を見ながら、少し考える。メールがあることは分かった、この女が演技をしているようでもない。信用したフリをして、状況を聞くのも手かもしれない。
「分かった、お前の言うことを信用しよう。」
そう言うと女が、さっきまでとは違う純粋な笑顔を見せ、こちらを見る。
「本当かい!?本当に信じてもらえるのかい!?」
「信じるしかないようだな。」
女が俺の手を握り何度も頷く。
「じゃあ詳しい説明をしよう!ええと・・・どこまで話したかな・・・?」
喜びながら握ってきた女の手を振りほどく。
「その前にだ、ここにシャワーはあるか?」
「そうだね、君の体は毎日拭いてはいたが。さすがに一年も風呂に入らないのは辛いだろう、案内しよう。詳しい話は身も心もサッパリとしてからしよう!」
先ほどとは別人のように、上機嫌で俺に繋がれていた装置をいじり。車のバッテリーと、小さな装置が一緒になったものを俺に渡してきた。
「これを持っていてくれ、君の首筋の装置に繋がれていて。このバッテリーの電力が切れると、どうなるか分からない。」
なぜ今まで気が付かなかったのだろう?見ることができないのだが、首筋には小さな何かが埋め込まれており、コードがその小さなに繋がれた。
「待て、電力が無くなると、どうなるんだ?」
「死ぬな」
あっさりと。いや、かなり気軽に言われてしまった。突然渡されたバッテリーの重みが増したような気がする。
「大丈夫だ!水に濡れても良いように、ちゃんと手を加えている。安心して風呂に入ってくれ!!」
満面の笑みでこちらを見る。いや、そういうことを、俺は心配していたわけじゃないのだが・・・。
「よし、それでは風呂場に案内しよう!付いて来てくれ!!」
車いすを操作して、俺に付いてくるように言ってくるが。この女は何か勘違いしているようだ。
「いや、入るのはお前だ。気づいていないのか?相当臭うぞ?」笑顔のまま女が固まる「風呂に入ったのはいつだ?」さらに言うと、顔が引きつりだした。
「じょ、女性にそのような言い方はないんじゃないのかい?」俺から目をそらし、車いすを動かそうとする手を止める。
「俺はお前のお願いを聞くんだ、それじゃあ不公平だろう?大体、お前は話をするような状態じゃないだろう。いいから行くぞ、風呂場はどこだ?」
女の頭に付いていた、先ほどベッド下にいたのと同じ、ネズミを取って見せながら言うが、納得して無いようだった。無理やり車いすを押して薄暗い部屋から出る。廊下に出ると、そこは想像していた研究室のような無機質な廊下ではなく。一軒家のようだった。ただ、廊下の端には雑誌や服、段ボールが積み重なっており。車いすがギリギリ通ることのできる幅だけが確保されていた。先ほどの部屋を見て、覚悟はできていたが、女が住んでいるとは考えられない環境だった。
「な、なぁ。別に今日、入らなくてもいいんじゃないか?汗をかくようなこともしていないし・・・。そこまで臭くないだろう?」
「いいから風呂場はどこにあるか言え、さっきみたいに丁寧に聞いてもいいんだぞ?」もちろん、そんなつもりはないが軽く脅してみる。もう懲りたのか、素直に案内をし始めた。
風呂場まで行くのにも、通ってきた廊下のような光景が続き。何に使うのか分からないような機械の部品や。何語で書かれているのか分からない開きっぱなしの本。脱ぎ捨てられた下着まで散乱していたのを見たときは、開いた口がふさがらなかった。
風呂場の中は、外とは違って意外と綺麗だった。浴槽にお湯を落としながら、脱衣室に目を移すと、すでに女が服を脱ぎだしていた。白い肌に肋骨が薄らと浮き出ていた。
「一時間やる、ガキじゃないんだ。ちゃんと洗えよ」
全くそそらない裸から目をそらし、もしやと思いシャンプーの容器を確認すると。取り越し苦労だったのか満杯まで入っていた、同時に飽きれもしたが・・・。
「大丈夫だ、一時間もかからないで出るよ!」
まだ脱衣所に俺がいるのにも関わらず、下着まで脱ごうとしていた。
「一時間もかからない?違う、”一時間入るんだ”、それまで出てくるなよ俺はすぐそばにいるからな」
最後の言葉は、足が不自由であろう女のために言ったのだが。問題の女は生まれたままの姿で、手すりにつかまり浴槽に入って行った。
それからすぐにシャワーの音が聞こえ、脱衣所には酔っぱらいのような陽気な鼻歌が聞こえだし、不意に女の話していた言葉を思い出した。
「”君の体は毎日拭いていた”・・・?まさか・・・、あいつがか?」
家の中には、ほかの人間が住んでいるような痕跡はなく。今ここにいるのは、俺とあの女だけのように思えた。
「いや、考えないようにしよう。その方がよさそうだ。」
調子はずれの鼻歌が終わり、元素記号を歌うように暗唱しながらお湯で遊んでいる音が聞こえ。女にも聞こえるようにため息を吐いたが、そのまま円周率の歌も聞かされることになった。
結構書いたな~、と思って読み返してみるとそこまで書いていない不思議。
一応見返していますがもしかしたら誤字脱字あるかもしれません。