老いた実力
長年使っていないピアノ。
鍵盤に手を乗せると、冷たさが指を伝って脳へと伝わる。
「ポン」と音を鳴らしても、静けさだけが空間へと広がった。
すると娘が部屋へと入ってきて、もの珍しそうに顔を覗かせた。
鍵盤を叩くと、音源が部屋へと広がっていく。
娘は楽しそうにピアノを弾いた。
疲れたのか、娘はピアノを弾き終わり、自分の部屋へ戻っていった。
あるのは私とピアノのみ。
鍵盤を触ると、先ほどとは違い温かみのある鍵盤がそこにはあった。
娘の手の温かさによって、生き返った私のピアノ。
その温かさによって子供時代に特訓した光景が目に浮かんだ。
私は思いっきりピアノを弾いた。
そこへ主人がやってきた。
「家具が倒れてきたかと思ったよ」