風 (即興小説トレーニング)
「なあ、これってなんだろう?」
息子は僕に向かって呟いた。
「何だろうね…」と僕は返した。
はるか昔に世界は滅びた。
世界の常識は崩壊した。
僕が生まれたころには、世界はまだ滅んでいなかったらしい。
物心つくと、そこには焼野原が広がっていた。
僕は世界を修復することを望んだ。
かつて人間の手によって、崩壊した自然の定理。
それを、再びよみがえらせるのだ。
いま、僕は30歳になった。
自然は再生に向けて動き出し、僕には子供もできた。
そして僕は、8歳になった子供に、自分の再生した自然を見せに来たのだ。
さて、これは何だろうか。
少し考えて、僕はあることに気づいた。
体を、髪をなでる感触。
それはかつてあった世界の法則。
大いなる自然の定理。
気流の流れ。
それは…
「そ、それは…風だ。」
わたしの流した感動の涙が、風に吹かれて流れていった。