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2-1. 請願と満願

 自然は豊かだ。地上の面積に対して蛮族の勢力圏が実に小さい。

 魔素は濃くもなく、薄くもない。邪神を召喚して逃げられた種族の場合、魔術に携わる魔術師は蛮族500人につき1人程度しか見出されないようだ。開花しない原因は教育の劣悪さであり、潜在的には100人に1人が魔術師の素質を持っている。蛮族10人に1人程度の戦士がいて、世襲化した騎士が貴族階級を形成し、国によって比率は異なるが権益を持つ聖職者階級がおり、世襲制の王が社稷(しゃしょく)を守って神と蛮族の間を取り持つ。そんな体制の神権国家が30ばかり乱立している。土着神の権能が戦争向きの国家が統一国家として台頭する萌芽を伺わせてもいるが、現時点では争いの絶えない野蛮な世界であるようだ。


 召喚陣は再利用できないよう乱雑に書き換えた上で破砕して来た。捧げられていた命の多くは攻め滅ぼされた小国の民だ。奴隷に適した子供と若い女は連れ去られ、社稷(しゃしょく)を守護すべき王族は土着神との契約を断つべく根絶やしにされた。そして男女と傷病者と老人が捧げられ、召喚術が執り行われた。刈った蛮族の魔術師から知識を集めてみれば、異界から強大な存在を召喚して使役する気だったそうな。

 邪神など蛮族の手には負えまいに、無謀にも程がある。僕なら絶対にやらない。食い逃げ邪神よりも悪意に満ちて暴力的な神は幾らでもいる。召喚に応じる事は応じて即帰還した存在が僕の邪神だった事はさて、蛮族にとって運が良かったのかどうか。命を一つしか持たない僕すら御せない脆弱な蛮族の所業にしては笑わせてくれる。

 契印(けいいん)を奪われた土着神は侵略者の奉じる神に従属するか、影響力を失うかを選ばされる事になる。侵攻を命じた神の目的は王族の根絶と契印の奪取であり、侵略軍の主目的は果たされた後。宝珠(オーブ)に封じた蛮族の記憶を眺めればそんな情景が視えた。


 言葉にできない衝動を感じるまま亡国を歩き回り、戦利品を満載した軍隊が去った後も残党による執拗な略奪行為が続く市街地を見た。隠れ潜んでいた亡国の民は奴隷として狩り出され、或いはただ慰み者となって殺められた。侵略者は土地を占領して支配し、運営する事を考えていないかのようだ。

 やり口を晒せば一国を滅ぼし尽くしたとしても他国からの警戒と敵愾心(てきがいしん)を買うだろうに。お(かみ)が殺し尽くされようとも、支配者が交代するだけと思えば下民はある程度従順だ。奴隷に落とされるにしても命があるならましと言うもの。しかし召喚陣の上で殺されると認識したなら、市民10人に1人だった戦士は市民10人が10人とも志願兵と化す。弱兵であっても死兵として戦う気概はあるかもしれない。まあ、上手い戦争のやり方ではない。


 僕の生まれた場所なのに、と考えるに至って違和感の正体を知った。郷愁めいた感情とこやつらの請願を聞き入れてやろうと言う心情の源泉は、僕を創造する素材となった命だ。一度は邪神に咀嚼されたはずだが、引き摺られている。


 そうと悟った僕は悲運によって精神の均衡を失った原住民の請願を喜んで聞き入れ、城と市街地へ黒油と火を降らせて焼き払った。消えない火を放ち盛大な荼毘(だび)に付したのは僕自身の為でもあった。それから、原住民と既に交わしていた契約を果たすべく猛禽(もうきん)に身を変え空路で侵略軍本隊の後を追った。

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