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8. 愛の巣にて

 成赤竜アダルトレッドドラゴンなら殺しておいた。



 僕は決して武断派ではない。筋肉よりも知能の方が秀でていると思う。強者との接触が交渉で済むなら交渉するし、武威を示せば(ひざまず)く手合いに対しては暴力を振るう。お化けに対しては全面的な土下座の用意がある。善悪で言ったらごく普通の対応をしているのに、父にして母たるものが邪神なばかりに悪だとされるのは理不尽だと思わないか。


 ともあれ、嫁を住まわせるのに最適な立地に原住民がいたので殺して奪い取ったと言うだけの話だ。(ドラゴン)もだらしのない事よ、竜の爪がどれほど痛かろうが、竜鱗がどれほど硬かろうが、臓器が丸裸では意味がない。脳に詮をして破裂させ、心臓に詮をして血を巡らせず、炎の吐息(ブレス)を吐き出すはずの喉にも詮をしたら殆ど自滅した。わざわざ様子を語るほどの戦いではなかったね。成竜(アダルトドラゴン)ならこんなものなのだろうか。赤竜(レッドドラゴン)を殺した後、僕は皮の屋敷に築き上げた閉鎖領域の下層から愛の巣へと繋がる転移陣を繋いだ。

 見た目こそ蛮族との合いの子めいて造形されたが、僕の本性はスライムだ。スライム上がり邪神の神子(みこ)、さしずめスライムの王子(プリンス)だとしてもな。そして可愛い嫁はこれから大いなる女王(クイーン)になるのさ、僕らの愛の巣で。膨大なまでに体積を膨れ上げさせ、活火山の溶岩と地熱に温められた温水を吸い上げ眩しいばかりに輝く嫁に語りかける。灼熱の溶岩の筋が嫁の中で脈打ち吸収される様を見るのは心が和む。


「消化具合はどうだい? 赤竜(レッドドラゴン)ならとても君に似合うと思うんだ。

 僕が愛しい君に贈る赤い鱗のドレスであり、竜肉のステーキを気に入ってくれたら嬉しいな」


 応えるように、澄んだ橙の触手が僕を撫でてくれる。地底に這う膨大な本体から長く太く伸ばされた触手が僕を押し包むようにして乗せ、美しい嫁の全身を愛でさせてくれている。これだけ巨大化してしまえば、嫁は独りでも竜よりも弱い魔獣ならば喰い殺しておやつにできるだろう。

 未だに命としては僕の方が強く、癒着すれば僕に嫁が吸い込まれる感覚があるのは悲しい事だ。どうやら嫁の強大化はここまでが限界らしい。小鳥めいた小さな断片からよく頑張った、と褒めるべきなのだが……寂しい事だ。僕には眷属を造り出す事はできても、僕と同格の存在にまではしてやれなかった。


 望みは分体に託すとしよう。僕と嫁を混ぜ合わせて産み出す我が子にして、分かたれた僕らに。

 本性の一部を現し、爪先ほどの黒い粘体を四つ掌の上に産み出す。空気に触れれば腐敗を招く触媒と化し、硫黄臭の立ち込める火山内部に瘴気を漂わせる。僕の真の姿のほんの断片、眼下いっぱいに広がって待ち受ける嫁に受け止めて貰う種子だ。「喰いたい」「溶かしたい」「殖えたい」「叩かれたい」と原始的な欲望に塗れた意思が掌から伝わって来る。……大丈夫かね、誰に似たのか四つとも性格に難しかない気がする。


 まあいいや、と四つの種子を念動力の手で運んで振りまく。各々が遠くへ行くように、偏らないように。

 初めての子産みは長く僕の記憶に残る光景になった。四つの長子の種子が可愛い嫁と混ざり合い、溶岩と温水と蒸気の中で嫁が産みの苦しみに長く悶えた。その全身を僕の波長で染め上げ、よく馴らしたとしても種子は凶悪な異物には違いない。更なるエネルギーを求めて嫁が火山からの熱量奪取を強める度、活火山そのものが鳴動する。地底から引き摺り出された熱は嫁に喰われ、噴火には至らない。そうして嫁の身を食み、蝕む種子が少しずつ大きくなる。種子が核となれば受け入れた嫁の体積はぐっと小さくなる。それが四つ。


「よくやってくれた。君は僕の最愛の嫁だ」


 四つの分体を産み落とした時、嫁はとても小さくなっていた。また次の子を産めるようになるまでは暫く時間が要る事だろう。活火山が死火山になるまでに何回産めるかな。なに、死火山になったなら次の新居へと引っ越そう。火山の熱が優良な力の源となるのは何も赤竜(レッドドラゴン)に限った話ではない。次の転居は子らと嫁と僕とで古竜(エルダードラゴン)を狩るのもいい。


 可愛い嫁と恥じる事なき僕の真正の混合物、分体達は澄んだ暗い橙色をしていた。僕が何者にも見通せない闇色で、嫁が夕日めいた橙だから順当な色合いだ。食欲に任せてもそもそと蠢き出す分体に対し、僕はまず徹底的に暴力と魔力によって上下関係を教え込んだ上で役割を与えた。

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