六話《魔法授業!(七歳講座)》
一時間はすぐに経ち、父さんとの剣の修行が始まった。
「ん? ショウ。なんだ、その指輪は」
とこんな感じに指輪について言及されたが、おじさんから貰ったと言うと、「またあの酔っ払いかぁ……」と呟きながらぽりぽりと頭をかいていた。
でも、まあ確かに酔っ払いだけど、こんな指輪を持っているってことは、実はおじさんって凄い人なんじゃないか?
いや、それは無いか……あの酔っ払いに限ってそれは無い。
偶然家にあっただけだろう。
「さぁ、父さん。始めようよ」
「ん? 今日は随分やる気満々だなぁ……ショウ。だが、やる気だけでは剣は振れんぞ!」
言いながら父さんは修行用の剣を振るった。
だが、この動きはいつも最初にする小手調。
毎日見ているから、避けられる。
僕は剣を軽く避け、そして自慢の速さで胸元に潜り込む。
「おりゃあっ!」
声を上げながら上に向かって剣を突き上げた。
「ぐっ……!」
それを父さんは身体を捻りながら後ろに下がり、ギリギリのところで受け止める。
が、僕も負けじと即座に切り返し、再び剣を構える。
「おりゃああああっ!」
そして今度は、俊敏値9200から繰り出される速さで、剣を持ち突撃した。
これには流石の父さんも、腰を少し落とし、防御の姿勢に入る。
だが、甘い。
僕は突撃するフリをし、正面に構えられた父さんの剣を避けるようにして、ガラ空きの脇腹に剣を放った。
「甘いっ!」
だが、なんということか、父さんはさらにその上をいく。
僕の攻撃を予測していたかのように、剣を脇腹まで持って行き、ガッチリと防御したのだ。
そしてそのまま、勢いで僕を剣ごと弾き、走る。
……っ! やばい!
このままじゃっ!
「あ…………負けたよ。父さん」
剣を顔の前に構えられ、両手を上げながら僕は言った。
「はぁはぁ……強くなったなぁ。ショウ」
父さんは息を切らしつつそう言って、剣を下ろす。
父さんを……息切れさせることが出来た。
これは相当な進歩だ。
「いや、でも父さんにはまだ敵わないよ」
「そんなことない。お前なら後半月もあれば俺を超えるぞ?」
「半月というのは少し大袈裟じゃあないかな?」
「いや、お前には才能がある。……あ」
「ん? どうしたんだ? 父さん」
「何でもない……が、まぁ近々お前にとって嬉しいことが起きるだろう」
嬉しいこと?
うーん、何故だろう? 嫌な予感がする。
「さて、じゃあ今日は修行終わりだ。遊びに行っていいぞ。ショウ」
「うん、わかったよ。父さん」
ということで僕は、昼ごはんまでの数時間、イリアと遊ぶために外に出かけた。
「ショウぅ……」
「どうしたんだ? イリア」
イリアの家に行き、それから広場に向かっていると、イリアは急に泣きそうな声で僕の名前を呼んだ。
「昨日、怖い夢見ちゃったの……ショウがどこかに行っちゃう夢」
「ん? そんなことか」
「そんなことって何なの? 私、ショウがどこかに行っちゃったらやだよ!」
「大丈夫だよ、イリア。僕はどこにも行かないさ」
「本当?」
「本当だよ。僕を信じて」
「うん! わかった。私、ショウのことを信じる」
そう言ってイリアはニコッと笑う。
「さてと……じゃあ、遊ぼうか? 今日は何する?」
「うーん……」
因みに、いつもイリアと遊ぶ時は、なんとも子供らしく、冒険者ごっこなんてものをやっている。
少し恥ずかしいけど、イリアが楽しんでくれているし、最近は僕も割とノリノリでやっている。
後は……鳥の観察やら花を見たりだとか、何とも女の子らしいことに付き合わされている感じだ。
「魔法」
すると、イリアは急にそんなことを呟いた。
魔法?
また冒険者ごっこだろうか?
「ショウ! 私、ショウに魔法教えてあげるよ」
「え?」
それは嬉しいけど……。
というか、この村、魔法使いなんて多分イリアとイリアの母親くらいしかいないだろうから、願っても無いチャンスだけど……。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。私、大人だよ?」
そう言ってイリアは胸を張る。
うーん、不安だ。
こんな無い胸を張っている少女の魔法授業なんて凄い不安だ。
「よし、じゃあお願いするよ」
「任せてよ!」
そして、イリアの魔法授業が始まった。
「んー、じゃあまずは私の得意な風魔法と炎魔法かな?」
「あ、その前に質問良いか?」
「はい、なんですか? ショウ君」
なんだそのノリは……学校ごっこ?
「えーっと、イリア先生。風魔法や炎魔法と言いますが、魔法とはどれだけの種類があるのですか?」
僕ものってあげた。
イリアはそれが嬉しかったのか、少し笑っている。
「魔法は、えーっと、えと……」
「焦らなくてもいいですよ。イリア先生」
「魔法は! 炎、風、水、草、雷、土、光、闇、無属性の基本魔法と、回復、攻撃力上昇、防御力上昇などの補助魔法……えーっと後は、禁止級魔法とか超絶魔法とかあるけど、大きく分けるとそんな感じだよ」
「なるほど」
禁止級魔法……というのは少し気になるな。
「イリア先生はどれを使えるんですか?」
「えっとね。炎と、風と、光と、回復! えへへ。凄いでしょ? ……ショウ君」
今、思い出したかのように先生キャラに戻ったな。
「よし、じゃあイリア先生。教えてください。風魔法と炎魔法」
「はい、ショウ君」
イリアはそう言ってまず、手から炎を出した。
「これが炎魔法です」
「おぉ……」
「えーっと……出し方は、詠唱と無詠唱、どっちが良い?」
「それはまぁ、無詠唱かな」
「わかったよ。あ、わかりました。ショウ君」
そう言ってから、イリアは出した炎を消し、解説を始めるのか、ゴホンっとわざとらしく咳払いをした。
「えーっと、じゃあまずは炎のイメージを頭に思い浮かべて」
「うん」
炎のイメージ……ね。
赤くて、熱くて、全てを灰にするような火力がある。
まぁこんな感じかな?
「次は、そのイメージを頭の中で縮めて見て」
「縮める……か」
頭の中で思い浮かんでいるホワホワとしたこれを小さくすればいいのかな?
うーん、まぁ、出来た気がする。
「そしてそれを手のひらに持ってくるイメージをして」
「う、うん」
こうかな?
というか、魔法ってなんかかなり曖昧だな。
頭で考えるよりも、感覚的にやる……という
感じか。
「それから最後に、それを解放するイメージで!」
「うおおおおおおおおっ!」
叫び声を上げ、力を込める。
「……ねぇ、ショウ」
「……なに、イリア」
「…………出ないね」
「……うん」
炎魔法は、出なかった。
「風魔法でやってみようか?」
「あ、うん。そうだね、イリア」
風魔法も、もちろん出なかった。
「……ふふっ」
「おい、イリア! 今笑っただろ!」
「笑ってないよ……ふ、ふふ」
「やっぱり笑ってる!」
「だって、少しも出ないって……ふふふ、あははっ! もう駄目、あはははっ」
そんな笑いだけでは済まず、イリアはその後、女の子らしくもなく、大爆笑。
僕は沈黙してそれを眺めていることしか出来なかった。
「イリア……いくら自分が出来るからって、そうやって人を馬鹿にしたらいけないよ?」
「だって、魔法って普通、どんな人でも少しは出せるよ?」
「そうなの⁉︎」
「そうだよ」
えぇ……なんて僕、少しも出せないんだ? 転生者だから?
あ、そういえば!
僕は思い出し、ステータスを開く。
名前……ショウ
性別……男
レベル……60 ポイント10
筋力値……9880
防御値……350
魔力……0
魔防……350
俊敏値……9200
魔術
……なし
剣術
……なし
スキル
……レベルブーストC
能力
……『どんなものでも消しゴムに出来る能力』
魔力……0じゃねえかっ!
そりゃあちょっとも出せないわ!
あぁ……普通の人って自動的にステータスにポイントが振られるから、誰でも少しは魔法が使える、ということか。
よし、ポイント10あるし、魔力に振るか。
そして、振ってみると、魔力……10と、表示された。
よし、これなら!
「よし、イリア。見ていてくれ」
「うん?」
「今度こそ、炎魔法、見せてやるよ」
「う、うん」
そして僕は、イリアに教えてもらったことをもう一度繰り返し、炎魔法を放った。
「成功した!」
「凄いよ、ショウ! あれ? でも……あの炎、木の方に……」
「へ?」
見ると、僕の放った炎はグングンとスピードを上げながら、一本の大きな木に向かっていく。
これは……ちょっとやばいのでは。
下手をすれば、この辺一体が火事に……!
「うわああああ! イリア、急いで水魔法を!」
「使えないよおぉぉっ!」
「そうだったああああああっ!」
そして、炎は木に直撃した。
「あれ? 燃えないよ? ショウ」
「うん、燃えないね。イリア」
どうなってるんだ?
そう思った時だった。
炎が直撃した木が、元の状態から五倍程度の大きさにまで成長した。
「……は?」
思わずそんな間抜けな声を上げる。
え? なんで炎魔法を当てたら木が成長してるの?
ちょっと訳がわからない。
そしてふと、イリアを見ると、笑いを堪えていた。
「イリア?」
「な、なに? ふふ」
完全に笑ってるよ……。




