三話《初めての友達》
異世界に転生して、一年が経った。
僕も二歳……という訳である。
細やかな誕生日パーティーもあったりして、楽しかったことは記憶に新しい。
この一年間、僕は両親に隠れて、こっそりと能力を使うことに集中していた。
確かに、なんでも消しゴムに変えられるなんて能力は強力かもしれない。
が、いざという時に使えないと意味がない。
そう思い、能力の使い方やらなんやらを色々、試したりしていたのだ。
一年間を通して、僕の能力について分かったことを上げると。
1、消しゴムの大きさは消しゴムになる前のものの大きさに等しい。
2、酸素や窒素、二酸化炭素などの、元素なんかも消しゴムに変えられる。
3、はっきりと見えるものしか消しゴムに出来ない。
の、三つくらいだろうか?
一つ目に補足説明を加えると、例えば砂粒レベルの小さなものを消しゴムにしても、砂粒くらいの小ささの消しゴムではなく、通常サイズの消しゴムになるということ……だろうか。
つまり、一定以下の小ささのものは、全て通常サイズの消しゴムになるということである。
さて、一年も経つと、異世界生活にも慣れてきた。
起きて、朝食、運動、昼食、昼寝、おやつ、晩飯、風呂、自由時間、睡眠という生活を、ずーっと、続けている。
まぁ二歳だし、こんなものだろう。
でも、朝食後の運動……これが、中々にきつい。
筋力値が日に日に上昇していくのがステータスを見なくても分かる。
この世界では、二歳から特訓するのだろうか?
まぁ、この世界の男なら剣を持ち、戦わないといけない時がいつか来るだろうから、それぐらいから特訓しておいたほうが良いのだろう。
そんなことを考えながら、今日も今日とて朝食後のランニング。
家の近く、つまり村の中をくるーっと回る感じだ。
そして、走る距離が後半分……というところで、急に目の前に女の子が飛び出してきた。
「うおっ」
思わずそんな声を出して立ち止まる。
「あ、あの、ごめんなさい」
見た目からして僕と同い年……だろうか?
僕より少し身長が低い。
金色の髪が輝いて綺麗だ。
「良いよ。僕も走ることに夢中になりすぎていたしね」
「えーっと、ショウ君……だよね?」
「あれ? なんで僕の名前を?」
「この辺で、同い年の子、君しかいないの」
「ふーん……」
まぁ小さい村だしな。仕方ないことだろう。
「あ、あの……せっかく会ったんだし、友達に、ならない?」
「友達……か。良いよ。それで、君の名前は?」
「私の名前はイリア。これからよろしくね?」
「イリア……か。よろしくな」
こうして今日、僕に友達が出来た。
それから五年が経った。
僕もイリアも、七歳である。
「ねえショウ! 見てみて! ほら、風魔法、使えるようになったのよ!」
「へー、誰に教えてもらったんだよ」
「お母さんっ! 凄いのよ? 私のお母さん。風魔法ならほとんど使えるの!」
「あはは、僕の母さんは魔法なんて使えそうにないなぁ……」
「でも、ショウのお父さん、剣は凄いじゃない!」
「まぁね。最近、僕も剣を始めたけど、父さんは凄いと思うよ」
僕たちは最近、ずっと村の近くの小さな広場のようなところで、こんな風に遊んでいる。
はっきり言って、凄い楽しい。
前世では消しゴムのことしか頭に無かったから、こんな風に友達と遊ぶことは無かったしね。
そういえば二年前くらいに、イリアが長い髪を結び、ポニーテールにした。
前も良かったけれど、今も可愛らしくて良い感じだ。
「ねえねぇ、ショウ!」
「ん? なんだよ、イリア」
「少し、森のほうに行ってみない?」
「え、森に?」
村のすぐ近くには、大きな森がある。
というか、この村はその森に囲まれているのだ。
けど、森にはモンスターが出ると母さんが言っていた。
子供二人で行くには危険だろう。
「森で冒険するのよ! 私、いつか冒険者になるから、その練習!」
「え? 冒険者に?」
冒険者とは、世界の様々なところにある迷宮を探索し、攻略する者達だ。
迷宮には、魔法使いや剣士などの職種登録を冒険者ギルドでしてから、別の職業で五人パーティーを組まないと、入ることを認められないらしい。
だから、基本的に冒険者とは単体ではなく、そのパーティーを指すらしい。
「うん! だって格好良いじゃない! ねえっ、ショウも一緒に冒険者になりましょう!」
「うーん……まぁ冒険者になるのは良いよ?」
いつかは僕も働かないといけないからな。
「じゃあ早速、森に!」
「でも、森は行かない」
「え……? なんで? なんでよ、ショウ」
「危険だよ。僕たちはまだ七歳だよ?」
「大丈夫よっ! 後三年で学校に通えるような年なのよ?」
「そうかもしれないけど……やっぱり、危険だよ。モンスターならまだしも、もしかしたら盗賊なんかがいるかもしれない」
「むーっ! 分かったわよ! 私、一人で行く!」
イリアは頬を膨らまし、そう言って走っていく。
「ちょっと、イリア!」
そんな声も虚しく、イリアは止まらない。
くっ、行くしか……ないか。
僕も少し遅れて、イリアの走っていった方向に走り始めた。
「イリアー? おーい!」
森に入った僕は、イリアを探すため、大きな声でそう言いながら、森の中を歩いていた。
もう森に入って数十分になるけど、イリアは見つからない。
もしかしたら……何かあったのかも。
くっ……! もし、何かあったら僕のせいだ。
僕がもっとしっかり止めていたら!
そんなことを思っている時だった。
イリアの叫び声が聞こえた。




