二話《消しゴム隠し》
僕は今、悩んでいた。
この人間サイズの消しゴムをどうしようかと悩んでいた。
どこに出かけているかは知らないけれど、父と母が帰ってくるまでに、この消しゴムをどうにかしないといけない。
土に埋める……いやいや、時間がない。
燃やす……有毒ガスが出るので危険。
隠す……この大きさを隠すなど不可能に近い。
「うーん……」
全く、良い手段が思いつかない。
やっぱり、隠すしかないか……?
そう思い、僕は良い部屋がないかと探索することにした。
家の中のことも知っておきたいし、丁度良いだろう。
そして、とある一室を見つけた。
家の二階、奥にある部屋だ。
見た所、使われている様子はない。
とりあえずはここに隠すのが定石だろう。
だがそこで一つ、問題が発生した。
「これ、どうやって二階に持って行けば良いんだ?」
一歳と少しの身体で、この大きさのものを持ち運ぶのは無理だろう。
『そんなことありませんよ?』
すると、レイの声が聞こえた。
『レイって神様なのに暇なのか?』
『いえ、そんなことは……』
『でも、やけに僕に構うじゃないか』
『最初のほうは戸惑うことも多いでしょうからね。サポートですよ。サポート』
『なるほど……それで? そんなことありませんってどういう意味なんだ?』
『はい、つまり、貴方はあれくらいのものなら運べる……ということです』
ん……?
あの大きさの消しゴムを?
『いやぁ……無理じゃないか? 僕、まだ一歳と少しなんだぜ?』
『いいえ、あの消しゴムは筋力値が150以上なら余裕ですよ?』
『筋力値?』
『あら、ステータスの説明を忘れていましたね』
そう言ってから、『まぁ、見ていただいたほうが分かりやすいでしょう』と言い、パチリと指を鳴らした。
すると、目の前に文字列が広がっていく。
名前……ショウ
性別……男
レベル……35
筋力値……200
防御値……200
魔力……0
魔防……200
俊敏値……200
魔術
……なし
剣術
……なし
スキル
……なし
能力
……『どんなものでも消しゴムに出来る能力』
という感じだ。
なんだこれ? ゲーム?
『そうですね。分かりやすいと思い、ステータスが見えるようにしてみました』
『まぁ……確かに分かりやすいけれど、これずっと目の前に出るのか? 邪魔なんだけど』
『いえ、消えろと思えば消えますよ』
ふーん…………消えろ!
勢いよく心の中でそう言うと、ステータスがサーっと、視界から消えていく。
なるほど……こんな感じか。
『それで……このステータスなんだけど、強い方なのか? 弱い方なのか?』
『あぁ、そうですね。高校生の平均……と言ったところです』
『あれ……? もしかして、死ぬ前の能力を引き継いでるのか?』
『はい』
ということは僕、一歳と少しという年齢で、相当の力を持っていることになるのか。
『このレベル35というのは?』
『高校生の平均ですね』
僕のステータスが平均すぎるんだが!
『レベルの最大は?』
『99です』
『レベルを上げる方法は?』
『モンスターを倒します』
やっぱりいるのか……モンスター。
少しワクワクしてきた。
『レベルを上げるとどうなるんだ?』
『ステータスにポイントを振れます』
『でもこの世界の僕以外の人は、ステータスが見えないんだよな? 他の人はどうやってステータスにポイントを振っているんだ?』
『自動的に振られます』
ふーん……ということは僕だけが、自由にポイントを振れる訳だから、他の人よりもかなり有利なんだな。
『さて……と。ありがとうな、レイ。そろそろ消しゴムを運ぶとするよ』
『はい。ではまた』
そしていつも通り、レイとの通信が切れた。
ということで、僕は大きな消しゴムを二階に運んでいた。
重さの面で問題はないけど、やっぱり子供の身体では持ちにくいなぁ……。
そう思いながらも、数分経って、ようやく二階の部屋に消しゴムを置くことに成功した。
「ふぅ……」
達成感が凄い。
筋力値上がったんじゃないのか?
今日寝る前に見てみよう。
うーん……と伸びをしながら、そんな予定を心の中で立て、窓の外を見る。
「あれ?」
男と女が、こちらに向かって歩いてくる。
えーっと……父さんと母さんだよな?
大変だ!
急いで下に戻らないと!
ドタドタと音を鳴らしながら、僕は階段を下る。
「ただいまー、良い子にしてたか? ショウ」
「当たり前じゃない、私の息子なのよ?」
二人はそんな風に話しながら部屋に入ってきた。
「えーっと……おかえり?」
僕は首を傾げながらそう言う。
「ただいま」
二人はこちらを向いてニコリと笑いながらそう返事する。
うーん、一応親子なんだけど……僕、赤ちゃんの時から今に至るまでをスキップしちゃったから、親子の関係性が分からないんだよなぁ……。
どんな風に会話すれば良いんだろう。
「そうだ、ショウ。誰のものか分からない靴が置いてあったんだが、誰か家に来たのか?」
あー、泥棒の靴か。
処分し忘れていた。
「ううん、誰も来てないよ」
「そうか。うーん……一体誰のものだろうか?」
そう言って父さんは腕を組み、頭を悩ませ始めた。
でも、本当のことは言えないな。
こんな年の息子が、泥棒を退治するなんて、怪しまれるかもしれない。
「それより、ショウ。もう寝る時間よ? 早くお布団に入りなさい」
すると、母さんはそう言って僕を抱き抱えた。
金髪美人だ……凄い綺麗だなぁ。
この年で抱き抱えられるというのは小恥ずかしいものがあるけど、少し嬉しいな。
特に、こんな金髪美人だと……。
まぁ、という訳で、僕は布団に寝かされた。
転生して、初めての睡眠だ。
目が覚めたら全部夢ってオチ……じゃないよな?
と思いながらも、僕は母さんに見守られ、眠りに入った。




