十九話《冒険者になってみないか?》
二年の月日が経った。
九歳だった僕とハルも、もう十一歳というわけである。
「うむ、その調子じゃ、若者」
「はい!」
今日も早朝からおじいさんに稽古をつけてもらっている。
「素振り……一億回だ。ショウ」
「はい!」
朝はガレイハさんの厳しい特訓。
「いくぜぇっ! ショウ!」
「あぁ! ハル!」
昼はハルとの勝負。
「がっはっは! お主、今日も大変だったようだなぁ」
「ええ」
夜はレフースさんとお風呂に入りながらワイワイと。
「ふぅ……今日も疲れた」
寝る前にはそんな風に呟く。
最近、こんな生活が延々と続いている。
マンネリ化もいいところだが、楽しいし、何よりも強くなった。
多分今なら父さんは軽く倒せるだろう。
未だにガレイハさんには勝てないが、(昨日、戦った時は惜しかった)それでもいつか勝てる時がくるだろうと思えるほどに……強くなったのである。
因みに二年間、未だにハルと僕の間に発展はない。
うーん……こういうのは難しいものだ。
僕は未だに恋というものが理解できていないしな。
「それにしても……異世界に転生して、もう十一年かぁ」
思い返してみると、早かった。
生まれて、家族に出会って、イリアと出会って、誘拐されて、ハルと出会って、ガレイハさんと出会って、レフースさんと出会って……。
前の消しゴムだけを追っかけていた毎日とは違って、今は充実している。
それだけで、神様には……レイには感謝すべきだろう。
そういえば、最近レイと話していないな。
『レイ?』
……呼びかけては見たものの返事がない。
うーん、やっぱり神様だし忙しいのかな?
「よし、寝るか」
呟いて眠りに入る。
明日も早い、こんなことを考えている場合ではないだろう。
「お前、冒険者になってみないか?」
朝起きると、ガレイハさんは唐突にそう言った。
「冒険者……?」
「説明はいらないだろ? 冒険者だ、冒険者! ならないか?」
「えと、あの、ならないか……ってどういう意味ですか?」
「なるか、ならないかって質問だろ、さっさと答えろ……」
えーっとまぁ……なるか、ならないか、で言われると、一応将来的にはなろうと思っていたけど……。
「じゃあ、なります」
「よし、それで良い」
「あの……どうして急に冒険者なんて」
「俺様の知り合いの奴がやってる冒険者ギルドでは剣士が少なくてな。その辺りの奴らも剣士がいなくちゃあまともなパーティーも組めねえと、次々冒険者を辞めちまって、それで強い剣士はいないのか? と、俺様に連絡があった訳だ」
「それで……僕?」
「そうだ。今んとこお前がこの道場で俺様を除いて一番強いからな」
まぁ、その自覚はあるけど……。
「でも、僕じゃあ……」
「やるって言ったよな?」
ギロリと睨まれ威嚇される。
うぐ…………断れない。
「わかりました。なります。なりますよ。冒険者に」
「おう、じゃあ話は早いぜ。俺様について来い」
「へ……?」
「良いからついて来い!」
「は、はい!」
な、なんだ?
なんだと言うんだ?
そんなことを思いつつ、大人しくガレイハさんの後ろを歩く。
そして、道場の外に出ると……。
崖から突き落とされた。
「え、あ、あ、あぎゃあああああああつ!」
ふと、初めて崖から落ちた時のことを思いだす。
というかなんで落とされているんだ、僕は!
怖い怖い怖い!
久しぶりに落ちるの超怖い!
「あ…………っ⁉︎」
そして僕は、物凄い勢いで落下した。
ぐ……足とか折れてないか?
そんな風に身体の異常を確認していると、僕は急に、謎の巨大な男に腰の辺りから担がれた。
なんだ……?
「くっ!」
抵抗しようとしたものの、がっちり掴まれて動けない。
こうなったら消しゴムに……!
そう思った時だった。
首元に強烈な痛みが走り、僕は気絶した。
「ハ……ル……」




