一話《転生》
気づくともうすでに、僕は転生していて、赤子として、ある一家の中心にいた。
大きな男と、優しそうな女が、僕を見て笑顔になっている。
多分、この二人が、父と母なのだろう。
それよりも、さっきから困ったことに身体が動かない。
えーっと……つまり、まだ生まれたばかりということか。
言葉も出せないし、不便極まりないな。
ゲームみたいに、動けるようになるまでスキップ出来たりしないかな?
『スキップしたいのですか?』
すると頭の中に、僕を転生させた神様の声が聞こえた。
『え? 神様……ですよね?』
『えぇ、神です』
『なんで、急に……』
『貴方が動けるようになるまでスキップしたいと言ったからですよ』
『えーっと……出来るんですか?』
『もちろん、神ですから』
最後に『では、また……』と神様が言い、気づくと、僕は立っていた。
「あれ……? 動けるようになってる」
あ……話せるようにもなってるじゃないか。
えーっと、僕って今何歳なんだ?
ふと、手を見てみる。
大きさからして……いや、全く分からない。
手の大きさで何歳かなんて分かるわけがない。
「うーん……?」
僕が何歳かの確認のため、周りを見渡す。
木で出来た家……か。
家具とかも見たことのないくらい古いのばかりだし……時代としてはかなり昔に来たようだな。
あ、そうだ。
こんな時でも便利なアイテム、神様があった。
『神様』
『次はなんでしょうか?』
『ここって……どんな世界なんですか?』
『えーっと、俗に言うところの、剣と魔法のファンタジーな世界ですね』
『なるほど……ありがとうございます』
『はい、質問はそれだけですか?』
あ、一番重要な、僕の年齢を聞くのを忘れていた。
『あの、僕って今、何歳なんですか?』
『一歳と少し……と言ったところですね』
『ふーん……あ、後もう一つ、聞きたいことがあるんですけど』
『まだあるのですか?』
『はい、神様の……名前、知りたいんですけど』
『名前ですか。名前は……ありません。好きなように呼んでください』
好きなように……か。
じゃあ消しゴムの英語であるイレイサーからとってレイ。
『神様、僕は貴方をレイと呼びます。良いでしょうか?』
『レイ……ですか。良いですね、その名前。気に入りました!』
『そう言ってくれると嬉しいです』
『あの……』
『ん? 何ですか? レイ」
『出来れば、敬語は良してください』
『はぁ、そう言うのなら……分かりました。いや、分かったよ。レイ」
敬語……嫌なのか。
まぁ敬語って壁があるような印象……あるもんな。
『では、また何かあれば』
そう言ってレイは、僕とのテレパシー? みたいなのものを終了させた。
さてと……とりあえずは、家を一通り見て回るか。
そんな風に思い、くるりと振り向くと、大きな男が立っていた。
「父さん……?」
いや、違う。
一年と少し経ってはいるだろうが、ここまで人の顔が変わるなんてこと、普通はないはずだ。
父さんはもっと優しい顔をしていた。
こんないかにも泥棒みたいな顔はしていない……って、ん? 泥棒?
「留守かと思って来てみればぁ……ガキがいるじゃねえかぁ」
やっぱり泥棒だ! こいつ。
「……っ」
どうすればいいんだ?
僕、まだ一歳だぞ?
「まぁ、良い。おい! ガキ、家の中を案内しろ」
……素直に従うべきか?
いや、ちょっと待てよ。
確かに僕はまだ一歳。
この世界に来て、ほんの少ししか経っていない。
剣も魔法も使えるわけがない。
けど……能力があったじゃないか。
レイから貰った、なんでも消しゴムにする能力が……!
「って使い方わかんねえよっ!」
説明書とか付けといてくれよ……。
不親切だなぁ、レイ。
「あん? 何言ってんだよ。ガキ」
「貴方、さっきからガキガキうるさいですねぇ……。僕はこう見えても高校生ですよ?」
「高校……生? 何言ってるんだ?」
あ、この世界って高校とかないんだ。
「……えーっと、そうだ。泥棒さん」
「ん?」
「消しゴムって知っていますか?」
「消し……ゴム?」
やっぱり知らないか……。
それより、こんな風に、父さんか母さんが帰ってくるまで時間稼ぎするしかないのか……?
僕なんて、消しゴムの話しか出来ないから難しいぞ?
「えーっと消しゴムというのはですね。白くて、四角で、あの……えーっと」
「……? 何言ってるんだガキ。良いからさっさと家の中を案内しろよ」
くっ……!
こいつ、消しゴムにしてやろうか?
そう思った時だった。
泥棒の身体が光りだし、光が収まった次の瞬間、泥棒は消しゴムになっていた。
「え……?」
もしかして、思うだけで消しゴムにすることが出来るのか?
ちょっと……強すぎないか? これ。
というか、消しゴムにする能力……と言うから、普通のサイズの消しゴムになるんだと思っていたけど……。
「……大きすぎるだろ」
そこには、人間サイズの消しゴムがあった。




