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十五話《修行開始》

 ……眠い。

結局、ハルのことを考えていて、あまり眠れなかった。

あぁ、もう朝か。

全く、朝ってなんでこんなに早く来てしまうのだろうか?

そもそも、朝になったら起きるというシステム、誰も得していない気がする。

もう昼からで良いじゃないか。

もっとみんなのんびり生きようぜ……。

準備運動をしながら、そんなつまらないことを考えていると、朝にも関わらず、いつも通り元気なハルは、「おはようございます! ショウ君っ!」と、僕の部屋に入ってきて言った。

うーん、この元気さは学校の先生を思い出すな。

なんであの人たちあんなに朝から元気なんだろう?


「おはよう、ハル。今日からはやっと修行だね。頑張ろうか」

「はい!」


そういえば、修行って何するんだろうか?

あの崖を一秒で登るなんていう頭のおかしい挑戦をした僕からすれば、ほとんどの修行はそこまで辛いものではないと思うけど……。


「なあ、ハル。修行って前まで何してたんだよ」

「えーっと、朝は素振りを百回です」

「ふーん、意外と普通だな」

「あの崖登りが異常だっただけですよ」

「やっぱりあれ、異常なのか⁉︎」


いやぁ、今でも思うもん、高層ビル並みの高さの崖を一秒で上がりきるなんて、頭おかしいって……。


「おい、お前ら、起きてるよなぁ?」


すると、ガレイハさんの声が聞こえた。

どこからかは分からないが一応、「起きてます」と返事する。


「よっし、じゃあグラウンドにこい。修行開始だ」


ついに、修行の始まりである。



 修行服に着替え、いそいそと外に出る。

そして、ガレイハさんが仁王立ちでグラウンドの真ん中に立っているので、そこまで向かった。


「おはようございます、ガレイハさん」

「んあぁ、おはよう。ハルはまだなのか?」

「ハルもやっぱり女の子ですし、いろいろしているんじゃないですか?」

「それも……そうか。それに、お前が早く来てくれて好都合だぜ」

「好都合……?」

「早速だが、朝の素振りをしてもらう」


あぁ、はいはい、百回ね。

それくらいなら余裕で……。


「とりあえず一万回だな」

「ええ、それくらい……って一万回⁉︎」

「あぁ、一万回だぜ? どうかしたか?」

「い、いえ」


筋肉痛になっちゃうよおぉ……。


「お前の武器は八本の小刀だったよな……うーん、すまんが、やっぱり八万回で」

「武器の数が仇に⁉︎」


くっそ、なんで無駄に八本もあるんだよっ!


「一つにつき一万回な。はい、素振りスタート! 一!」

「一!」

「もっと腰を落とせ、二!」

「二!」


嘘だろ……? これを一万回?

それを八本分で八万回?

地獄だな。

そんなことを思いつつも、ただひたすら素振りを続けていると、ハルが遅れてやってきた。


「あ、ハル」

「おい、ショウ! 手を休めるな! 次で千だ!」

「は、はい!」


まだ一万回のうち千回。

十分の一か。


「よし、ハルも素振りを始めろ! お前は百回だ」

「はっ、百回くらいならすぐ終わっちまうぜ」

「なら、千回だ!」

「ははっ、良いじゃねえかぁ」


ハル、やっぱり別人格になってるよ。

それにしても、千回かぁ……。

良いなぁ……。

いや、ハルは武器が巨大な斧なんだし、僕との数の違いがあるのは当然といえば当然なんだけど。


「千!」


それから、僕がやっとのこと五千回目の素振りを終わらせた辺りで、ハルは千回の素振りを終了させた。

ドスンッと勢いよく地面に斧を突き刺す。


「かぁぁ、疲れたぁ。おい、ショウ。お前まだ終わらねえんですか?」


ねえんですか……?


「あの、師匠さん。ショウ君って何回素振りしないといけないんですか?」


あ、戻った。

さっきの変な口調は微妙に戻りかけていたということか。


「八万回だ」

「八万回⁉︎」


どうやらハルも驚いているらしい。

いや、それは驚きもするよな。

僕も素振りしながら未だに驚いてるもん。

あはは、それにしてもこれ、いつ終わるんだろう?

手も痛いし、足も、腰も痛いけれど、そんなことよりも、この八万回という途方もない数字に頭を悩まされる。

はぁ……次で八千回か。

これの十倍やるんだから、頭おかしい。


「さて、ショウが八万回終わるまで、俺様は朝飯食いに行くから、ハル、お前こいつのこと見ておいてやれ」

「あ、はい!」


つまり僕が素振りを終えるまで、僕たち二人は朝飯抜きと、ということか。

すまない、ハル。

これは多分昼までかかりそうだ。



 案の定、昼までかかりやっとのこと僕は、八万回の素振りを終わらせた。


「うぅ、お腹空きました」

「ごめん、ハル……」

「いえ、八万回なんて仕方ないですよ。むしろ早いくらいです!」


それは多分崖登りで鍛えられたお陰だろうな。

多分ここに来たばかりの僕なら何日もかかっていただろう。


「さて、じゃあ朝ご飯にしようか」

「はいっ! 私、作ってきましたよ!」


あれ……?

僕は道場での食事担当の人に作ってもらったご飯を食べるはずだったんだけどなぁ。


「えーっと……おにぎり?」

「おにぎりですっ!」

「うん、ありがとう。嬉しいよ」


……誰かこのエンドレスおにぎりを止めてくれ。



 食後、ガレイハさんが、「これからまた修行だ。準備しろ」と言うので、二人で柔軟やらをやっていると、ガレイハさんがめんどくさそうに頭をかきながら、外に出てきた。


「それで、今からは何するんですか? 腕立て伏せ一億回とかですか?」

「お前、俺様を数だけやらせる奴みたいに思ってんじゃねえよ。良いか、今からやるのは模擬戦だ」

「模擬戦?」

「そうだ。ショウとハル、お前ら二人で戦ってもらう」


ハルと……か。

ふと、ハルを見ると、驚いた表情をしている。


「そして勝った方が、俺様と戦うんだ」

「え? ガレイハさんと?」

「当たり前だ。俺様は一応師匠なんだぜ? 弟子を自ら鍛えるのは当然だろ」

「はぁ……なるほど」


ガレイハさんか……僕もあれから二年間崖登り頑張ったし、勝てるかな?


「さて、じゃあお前ら、勝負開始だ」


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