十三話《試されるセンス》
「くっそ、待ちやがれぇっ! このクソ女ぁっ! お前、僕がこの服を買うって言う状況になるまでに何回崖から落ちたと思ってんだよぉっ!」
僕はキャラにも会わず、声を荒げながら、金を入れた袋を盗んだ女を追いかけていた。
ハルには、適当なところで待ってもらっている。
「……っ! それにしてもどこに消えたんだよ」
この入り組んだ、迷路みたいな裏道だ。
中々見つからない。
どうすればいいんだよ……。
「ちっ……!」
舌打ちして、もう一度走り出す。
見つからない……。
見つからない……!
見つからない…………!
すると、少しだけだが足音が聞こえた。
タッタッタッタッタッと、走っているような音。
あの女か……?
僕は音が聞こえる方向を探し、そちらに向かい、走り出す。
そしてある程度走ったところでついに、女を見つけた。
異常に、派手な女。
つまり、僕たちのお金を盗んだ女である。
「見つけたっ!」
「な、あんた。この裏道でどうやって私をっ!」
「そんなことはどうでもいい、早くお金……返せよ」
「あぁ、はいはい。わかったよ。わかりましたよ。ほら」
すっと、お金を渡される。
「割とあっさり渡すな」
「私は諦めが良いんだよ。こんなつまらないことであんたにボコボコにされたくはないからね」
「ふーん」
ここまでさっぱりとされると、怒るに怒れない……。
「じゃあね。お金は返したし、いいでしょ? もう二度と会うことはないと思うわ」
「あぁ、二度と会いたくもないよ」
言って僕は女と別れた。
全く、この茶番劇は一体なんだったんだろうか?
お金を盗まれて、追いかけて、あっさりと返される。
うーん……なんだか、これがただの無駄とは思えないな。
会いたくもないとは言ったものの、もしかしたらまた、あの女とは会うのかもしれない。
「そんな訳ないか……」
呟いて、僕はハルが待っている場所へと戻った。
ハルと合流した僕は、やっと服を買いに向かった。
「楽しみですねっ! ショウ君!」
「そうだね。ハル」
「えーっと、修行用と私服! 二つも帰っていいんですよねっ!」
「うん、確かそう言ってたよ。僕たちも九歳だし、私服の一つもいるだろうって判断かな?」
「まぁ、こんなボロボロの服で街を回るのは目立っちゃいますもんね」
「うん……あ、ここが良いんじゃないか?」
良い感じの服屋を見つけた。
ボロすぎでもなく高級すぎる訳でもない、本当に丁度いい感じの、僕たちに見合った、普通の服屋。
「そうですねっ!」
ハルもそう言うので、僕たちはその服屋に入った。
「いらっしゃい、どのような服をお探しでしょうか?」
「僕と、この子の服なんですが」
「あぁ、君たちくらいの子の服なら、この辺ですかね」
見ると、そこそこ様々な種類の服が置いてある。
「ハル、どれにする?」
「うーん……私は、これとか良いと思いますよっ!」
「あれ? でもそれ男用の服だよ?」
「はい! だから、ショウ君に良いかと思って!」
「え、あ、ありがとう……」
うん、僕好みの良い服だ。
特に消しゴムみたいに白いのが良い。
とりあえずこれは私服にするか。
「じゃあ僕も、ハルの服選んであげるよ」
「良いんですかっ!」
「うん、もちろん。僕のセンスでいいのなら」
「はいっ!」
さて、ここは僕のセンスが試される場面だな。
つい簡単に言ってしまったけど、これは中々に難しい。
女の子の服なんて選んだことないからな。
く……、まず大事なのは色だ。
僕のイメージだけで言うのなら、ピンク色辺りがハルは似合うけれど……うーむ、ピンク一色はどうなのだろうか?
あ、小悪魔的なイメージで黒も良いか?
それとも、これは僕の趣味になるけど、やっぱり白とか?
その後、一時間ほど頭を悩まし、僕はやっとのことハルの服を選んだ。
全く、優柔不断にもほどがあるぜ。
「ありがとうございますねっ、ショウ君っ! あ、ショウ君の修行用の服も選んでおきましたよ!」
「ありがとう……」
これは、僕もまたハルの修行用の服を選ばないといけないんだよな……?
……どうやら、また一時間ほど悩むことになりそうだった。
買い物を済ませた僕たちは、道中いろいろなトラブルがあったせいで、もう日も暮れそうなので、少し急ぎ足で、道場へと帰っていた。
「いやぁ、今日は楽しかったけど、大変だったな」
「そうですねっ! でもショウ君とのお買い物、楽しかったですっ!」
「そう言って貰えるなんて光栄の至りだよ」
「明日から、修行……頑張りましょうねっ!」
「うん、もちろん」
そんな風に話しながら、僕たちは道場へと、無事帰ることが出来た。




