十二話《悪いお姉さん》
崖を登りきって、後日の早朝。
一体、あのガレイハさんの修行とはどれほどのものかと、少しワクワクしながら、恐らく稽古部屋であろう所を探し、そこに向かう。
「ん? ショウ、お前か」
部屋に入るとガレイハさんはそう言って右手を上げる。
「あ、おはようございます」
「んあぁ、おはようおはよう。それで、ハルはまだか?」
「ハル……? ハルがどうかしたんですか?」
「あ、昨日言ってなかったか。今日から、ショウとハル、お前ら二人は一緒に修行だ」
「え……⁉︎」
「そんなに驚くことでもないだろ? お前ら、同い年だろうが」
「はい!」
どうしよう、はっきり言ってかなり嬉しい。
もし、全然知らない怖い人と一緒に修行なんてなったら嫌だからな。
「そういえばガレイハさん」
「なんだ?」
「ガレイハさんの弟子って……今ここに何人いるんですか?」
「女は、ハルを除いたら三人……男は、お前を除いたら五人だ」
「へぇ」
そこそこ多いな。
「おはようございますっ! 師匠さん! と、あれ……? ショウ君じゃないですかっ!」
「やぁ、おはよう。ハル」
「なんでここに?」
「どうやら、僕たち二人、一緒に修行らしいよ」
「なるほど、よろしくお願いしますね、ショウ君っ!」
「こちらこそ」
そんな会話をしたところで、ガレイハさんは咳払いをする。
おっと、ガレイハさんからの説明……聞かないとな。
「今日は、お前ら二人で……」
お前ら二人で……?
「お前二人で、デートしてもらう」
……ん?
「えええええええええええええっ⁉︎」
僕もハルも、そんな風に驚く。
「ど、どういう意味ですか? ガレイハさん!」
「そ、そうですよ! 師匠さん!」
「あぁあぁ、二人とも落ち着け。というか黙れ。デートってもあれだ。お前らの服、どっちもボロボロだから買って来いってことだ」
「あれ……? 自分で買いに行って良いのですか?」
「あぁ、お前ら、別に逃げたりしねえだろ?」
「まぁ、そうですね。今更逃げたりなんてしません」
「よし、じゃあ行って来い。行くのは崖から降りて、さらに下ったところにある森を、北に数キロのとこの街だ」
街……懐かしいな、イリアと一緒に木に上って見たっけ?
いや、その街とは限らないけれど……。
「これが地図だ」
そして地図を手渡される。
うん、分かりやすい、良い感じの地図だ。
「ありがとうございます。じゃあ、行こうか。ハル」
「はい! 行きましょう!」
やっぱりハルも新しい服が買えるのが嬉しいのだろう。
とってもニコニコしている。
女の子だし、服が嬉しいのも当然か。
「おっと、忘れてた。ほら、金だ」
「あ、はい」
お金の入った袋をガレイハさん受け取り、僕たちは街へと出発した。
崖を降り、霧を抜けると、森が広がっていた。
「えーっと……北だったよね? ハル」
「はい! そうですよっ」
「ということは、ここからだと左に向かうのか」
そう呟いて森の中を歩き出した。
「ハルは街、行ったことあるのか?」
「私は元々街で育ってますよ? あ、今から行くところではないんですけどねっ」
「へぇ……僕は村育ちだから、羨ましいな」
「私は自然に囲まれた村のほうが、羨ましいですけどね」
「いやぁ……逆に言うと、自然だけで、他にいいものはないぜ?」
「そうなんですか……」
「あ…………」
「え? どうしたんですか?」
「ごめん、ハルとの話に夢中になってたら、遭難しちゃった」
「そうなんですか……って遭難ですか⁉︎」
どうしよう……こんな森で迷子になるなんて、完全に遭難じゃないか。
「ハル……ここ、どこか分かる?」
「わからないですよぉ」
「そうだよね……」
よし、こうなったら秘策を使うしかない。
『レイ!』
……返事はなかった。
どうしよう……僕に秘策以上の策はない。
うーん、あ、そうだ。ハルって何か便利能力持ってないのかな?
そう思い、ハルを見ながらステータスを開く。
名前……ハル
性別……女
レベル……56 ポイント0
筋力値……6800
防御値……2030
魔力……15
魔防……2010
俊敏値……3500
魔術
……なし
剣術
……絶斧
スキル
……なし
能力
……なし
レベルの割にステータスは結構高いなぁ……という印象しかない。
絶斧……というのは見たことないけれど、多分この状況を切り抜けるには向いていないだろう。
「そうですっ! ショウ君っ!」
「え?」
「木の上に登ればいいじゃないですかっ!」
「…………う」
何故そんなことすら思いつかなかったんだろうか?
僕に知力のステータスがあったら一桁なんじゃないのか?
いや、前世では別に成績は悪くなかった。
ちょっとうっかりしていただけだろう。
うん、そうだ。絶対そうだ。
「よし、じゃあちょっと登ってくるから、ハルは待っていてくれ」
「はい!」
そして、登ってはみたものの、木の高さが少し足りない。
えーっと、今度こそ頭を働かせよ、僕。
「急激成長」
炎を放ち、木を成長させる。
「よし、これなら見える」
えーっと……あ、あっちが街か。
「あれ?」
この風景、前にイリアと木の上から街を見たときと完全に一緒だ。
えっとつまり……?
僕は背後を見る。
すると、遠くには僕の住んでいた村があった。
「……こんなに近くだったのか」
もっと完全に隔離されたような場所にいるのかと思っていた……。
僕、別に頑張れば帰れたじゃないか。
でも、今はそこまで帰りたいとは思わない。
もう、ここまで頑張った以上、とことん修行する気だ。
「バイバイ、父さん、母さん、そして、イリア」
あの時出来なかった別れの言葉を呟いて、僕は下へと降りた。
その後、順調に事は進み、僕たちは街へとたどり着いた。
「着きましたねっ!」
「あぁっ!」
街は村に比べ、人が大勢いて、騒がしく、人が走り回っている。
建物も高いものばかりで、木造ではなく、レンガで作られているようだ。
鎧や剣などを持った兵士や、やけに派手な格好をした王族や、他にも人間以外の種族である、獣人やエルフなどもいる?
売り場は賑わっており、特に混雑していた。
これは、買い物が大変そうだ。
「あんたら、田舎もんかい? さっきからキョロキョロして」
すると、急に派手な格好をしたお姉さんが話しかけてきた。
「あ、はい。服屋を探しているんですが」
「服屋……か。ついてきな、案内してやるよ」
「ありがとうございます」
僕たち二人はそのお姉さんに着いて行く。
「あんたら名前は?」
唐突にそう聞かれた。
「ショウです」
「ハルですっ!」
「ふぅん、私の名前は教えないけど……いいよね?」
「あ、はい。いいですけど……」
なんで名前を教えないんだ?
そんなことを思いながらも、進んでいく。
「あれ? こんなところに入るんですか?」
お姉さんは急に裏道に入っていった。
「そうだよ」
お姉さんがそう言うので着いて行く。
「あ、そういえば……」
お姉さんはくるりと振り向き、そう言った。
「そういえば、お金ちゃんとあるの? 街の服は高いよ?」
「一応、ありますけど」
「見せてみな」
「あ、はい」
すると、お姉さんは、入り組んだ裏道の奥へと走っていく。
「じゃあな、あんたら、私みたいな悪い大人に騙されちゃあいけないよぉっ」
最後にそんな言葉を残しながら……。
「え?」
ということは……。
「お金、盗まれたあああああああああっ!」




