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十話《少女は歌う》


 修行開始から一週間。

立ちはだかるのは巨大な崖。

先ほど、五十三回目のチャレンジを失敗で終わったところだ。


「うーん、ハル。どうすればいいと思う?」

「うーん……師匠さんのことだから、不可能なことは言わないと思うんですけど」

「……ガレイハさんねぇ」


そういえば僕はガレイハさんからハルを経由し、武器を貰っていたはずだ。

八本の小刀。

使い所、ないかと思ってたけど……もしかしたらこれがヒントなのかも。

そう思って、腰に装着した八つのホルダーから小刀を取り出していく。

因みに、この八つのホルダーは、昨日の食後にハルから貰った。

まぁ、便利である。


「えっとぉ? ん、これは」


刀一本一本には文字が刻まれていた。

この世界の古代文字か何かだろうか?

うーむ……レイ、さすがの神様と言えど、古代文字を読めるようにはしてくれなかったのか?

全く読めない。


「ハル、これなんて読むかわかる?」

「はい? なんですか? えーっと……これは、一式(いっしき)? ですよ!」

一式(いっしき)?」


一式(いっしき)ってなんだ?


「これは、二菊(にきく)。それから三釘(さんくぎ)四技術(しぎじゅつ)五遣(いつつか)六勘(ろっかん)刹七(せつな)鬼八おにや……ですね!」


訳が分からない。


「ハル……それってどういう意味なんだ?」

「よく、わかりません……へへ。えーっと、刀の名前じゃないですか?」

「まぁそう考えるのが自然か」


やけに大層な名前をつけるものだ。


一式

二菊

三釘

四技術

五遣

六勘

刹七

鬼八


それにどれも意味が分からない。

はぁ……この小刀に何かしらのヒントがあると思ったんだけどなぁ。

右手に四本。

左手に四本。

指と指の間に挟んでいる八本の小刀を見て僕はため息を吐く。


「あああああっ!」


少しイラついて右手の四本の小刀を一気に崖に刺す。

おっと、いけない。

僕としたことがこんなに怒るなんて……。

うーん、この崖登り、本当そのくらいハードだからなぁ……。


「あのっ! ショウ君! 私、思いつきましたっ!」

「思いついた?」

「それ!」


言いながら小刀を指差す。


「その小刀を、そんな風に崖に刺しながら進めば良いんですっ!」

「あ、なるほど……」


その発想は無かったな。

よし、やって見るか!




 はい、僕の五十四回目のチャレンジです!

みなさんも是非、お楽しみ下さいませ!

……誰に言ってるんだろうか? 僕は。

まぁそれはともかく僕は五十四回目のチャレンジを開始した。

刀を刺しては引き抜き、刺しては引き抜き、を、繰り返していく。

よし、手を使うより全然楽だ。

これならゴールできる!


「はぁはぁはぁ……」

「お? 遂にゴールしたか。やれば出来るじゃねえか」

「え、えぇ。頑張り、ましたよ……はぁはぁ」


疲れた。でも、成功だ!

僕の五十四回目のチャレンジは…………!


「成功しっ! ってぐわあああああああああああああああっ!」


突き落とされた。

ガレイハさんは疲れ果てた僕を、容赦なく突き落としやがった。


「一秒で……って言っただろ? 三十分もかかってんじゃねえよ」


え……一秒でって冗談じゃなかったの?

そして僕は地面に向かってグングンとスピードを上げながら進み、落ちた。


「あ……駄目だ。死ぬ気しかしない」


そう呟き、気絶する。

そして回復魔法をかけられ起こされる。

なんの拷問だ!


「一秒とか本当に可能なんですかぁ?」


下から上にいるガレイハさんに呼びかける。


「知らねえよ。俺でもそんなん出来ないもん」


は?

えーっとじゃあこの人は一体僕に何をさせているんだ?

本当に拷問?

あはは、あっはっは! あっはっはっはっはっは!……笑えねえよっ!


「……なぁ、ハル。どうすれば良いかな?」


僕は泣きそうな気持ちを抑えながら、ハルに尋ねる。


「えへへ……」


ハルは笑っているだけだった。

つまり……?


「どうしようもないってことですよねぇっ!」

「そ、そんなことないですよ! ショウ君ならできます!」

「ハルのそのポジティブさの欠片でも欲しいよ!」


はぁ……どうしよう。

でもやるしか、ないんだよなぁ。


「ショウ君っ! ここからがふんばりどころですよ! まだ一週間ですっ! 応援するから、一緒に頑張りましょう!」

「うん、そうだな。僕としても……意地でもクリアしてあのガレイハさんを見返したくなってきた」


いや、見返すなんてものじゃない。

強くなって、この道場を乗っ取ってやるくらいの気合でいくぜ!



 夜になった。

ハルと一緒におにぎりをパクリ!


「そういえば、ハルってどんな武器を使うんだ?」

「斧です」

「ん?」

「斧です」

「はぁ」


斧なのか。

なんか……キャラに合わないな。

いや、むしろこの女の子が武器を持っているイメージが出来ない。

明るくて、笑顔が眩しい、女の子だもん。


「その服は……一体どうしたんだ? あった時から思ってたんだけど、ボロボロじゃないか」

「修行のせいですね。私もこう見えて、毎日、頑張ってるんですから!」

「ふうん……」


でも、何というか……女の子にこんな服はちょっとなぁ。


「服は、買い換えられないのか?」

「うーん、完全に破れるか、ある程度成長したら、買ってきてくれますけど」

「そっか」


うーん、なんとか出来ないものだろうか?

まぁどっちにしろ、今のままじゃあ無理だろうな。

こんな……前は崖、後ろは濃い霧に包まれた状況じゃあ絶対。

だけど、上にいけば、なんとかなるかもしれない。

道場というくらいだ。人はいっぱいいるはずだし、ハルに服を譲ってくれるような、もしくは買ってきてくれるような、優しい人もいるだろう。

だから……頑張ろう。

一日でも早く、この崖の上を目指すんだ。


「ハルは、何か好きなこと……ないのか?」

「好きなこと?」

「修行……ばかりかもしれないけど、それでも昔は普通に女の子してたんだろ? なら好きなことくらいあったんじゃないのか?」

「うーん」

「聞かせて欲しいんだ。ハルの好きなこと。いや、ハルのことがもっと知りたいんだよ。僕、ハルの友達だから……」


僕はそう言った。


「私は……歌が大好きです。昔は毎日歌っていました。お父さんも、お母さんも、喜んで聴いてくれて……」

「そっか……」


優しい、女の子だな。ハルは……。


「良かったら……聴かせてくれないかな?」

「え?」

「歌……聴きたいんだ。ハルの、みんなが笑顔になるような、歌を」

「…………はい!」


そしてハルは歌い始めた。

美しくも、可愛らしい、そんな歌声だった。

笑顔で、楽しそうに、ハルは歌う。

両親のことを思い出したのか、途中で少し泣くこともあったけれど、ハルはそれでも笑顔で最後まで歌った。


「凄く良かったよ。ハル」

「ありがとうございます、ショウ君っ」


そしてまたハルはニコリと笑う。



今日は良い夢が見れそうだった。





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