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九話《新しい友達》


 勝負の結果は、僕の負けだった……とだけ伝えておこう。

事細かに説明し、わさわざ自分の無様を晒す馬鹿もいるまい。


「お前はまぁ七歳の割には才能あるぜ? いや、それでもこの俺様には勝てねえけどよ。でも才能はある、だから、この俺様が、この俺様自らが、お前を鍛えて鍛えて、鍛えつくしてやんよ」


勝負終わりそんなことを言われた。

そして、手紙……? を渡される。


「これは?」

「お前の父親からの手紙だ。さっさと読めよ」

「……わかりました」


えーっと、なになに?


『ショウ、これを見たということは、俺の師匠であるガレイハ師匠とはもう戦っただろう? どうだ、強かったか? いや、強かったんだろうな。多分……というか絶対に、お前は負けたはずだ。あはは、こんなことを言うと、本当にもしかしたら勝ってるかもしれないお前に失礼か。それはともかく……だ。本題を言うとだな。いや、それよりも礼が先だろうな。騙すような真似をしてすまなかった。サプライズのつもりだったんだ。こんなことを言うと、目隠しをされて、両手両足を拘束されたお前は、何がサプライズだ……と、怒るかもしれないな。さて、謝罪のほうはお前が帰ってきたら百回でも二百回でも誠心誠意するとしてだ。お前には、ガレイハ師匠の弟子になってもらうことにした。

ガレイハ師匠の言うことは絶対だ。

頑張って強くなって帰ってこい!

では最後に、お別れの挨拶をするとしよう。

ショウ、多分そこで修行する以上、八年間は帰れないだろう。

だが、俺は、俺とお前の母さんは、ずっと待ってる。

だから……元気でな。我が息子よ』


……父さん。

手紙、長いよ。

信じられないくらい長いよ。

あんまり内容入ってこなかったよ。

えーっと、つまりはガレイハさんに修行してもらえってことか?

しかも八年間。

どうしよう……イリアにはどこにも行かないって約束をしたのに。

イリアと今日も、遊ぶ約束をしたのに。

イリア……!


「おい、手紙は読んだよなぁ? じゃあ早速修行の開始だぁ。さっさと支度しやがれ」

「あの……大切な人を置いてきました。その人に別れを言いたいんで、一旦帰っても良いですか?」

「駄目に決まってんだろうが」

「そうですか……」


こいつ……さっきの勝負では使わなかったけど、消しゴムにする能力使って消しゴムにしてやろうかな?

でも、父さんの師匠だからなぁ……。

僕、消しゴムから人間に戻す方法知らないし……。

ということで、諦めて修行を受けることになりました!

はぁ……イリア。


「さてと、じゃあ最初は……」


言いながら、先ほど下りてきた崖を一飛びでガレイハさんは上った。


「ここを、一秒で上がってこい」


そう言ってその崖を指差す。


「おっと、俺みたいにジャンプしたらいけねえぜ? 凸凹を探して少しずつ少しずつ、手と足の力だけで上るんだ」


つまり、ロッククライミングをしろということか?

しかも、一秒で。

この高層ビル並みの高さの崖を……。


「……出来るわけがない」

「あん? 当たり前だろ。だから修行するんだよ」

「……それもそうですね。分かりました、やります」


こうなったらさっさと終わらせて、さっさと帰ってやる。

父さんは八年はかかるとか言っていた気もするけれど、一日で終わらせるぐらいの気合でやってやる!



 そんなことを心に思ったものの、果たして結果は惨敗であった。

惨敗と言っても誰かに敗けた訳ではないのだが、強いて言うなら、この修行に敗けた……ということであろう。

まぁ僕の敗北具合を見てもらおう。


一回目……半分で手の力が無くなり、地面に落ちる。

崖の下の回復専用魔法使いに回復してもらった。

上からは「なにやってんだぁ? お前は」と声。


二回目……半分もいかずに、足を踏み外して地面に落ちる。

またも回復してもらう。

上からは「さっさと上ってこい!」と声。

あれ? アドバイスとかないの?


三回目……日の光に照らされ、熱中症になり落下。

そして回復。

上からは「休んでる暇はねえぞぉ!」と声。


四回目……三回目と似たような感じだが、日の光に照らされ、脱水症状になり落下。

そして回復。

上からは「まーた休んでるのかぁ!」と声。


五回目……尖った石に手が貫かれ、落下。

もちろん回復。

上からは「うわ。それ超痛そうだな」と声。

確かに痛いけどね?


六回目……後少しでゴールというところで指が千切れる。

負担をかけすぎたようだ。

回復回復。

上からは笑い声。


七回目……少し涙を流しそうになりながら、汗だらけで、後ほんの少し、手を伸ばせばゴールというところで、足元が崩れ落ちる。

回復したよ!

上からは「残念……だったな」と声。


八回目……は出来なかった。夜だ。

上からは「じゃあまた明日なぁ! 食事は弟子に持って行かせるから心配すんな」と声。


「はぁ……疲れた」


それにしても、修行だというのにまだ道場すら見ていない。

おそらく崖の上にあるのだろうけれど……いつ見れることやら。


「大丈夫ですか?」


そんな声が聞こえ、振り向くと、女の子がいた。

僕を誘拐した、七歳の女の子。


「まぁ、大丈夫じゃあないかな」

「そうですよね……でも、頑張ってください! 私、同い年の子と一緒に修行出来るの、楽しみなんです!」


うーん、なるほどね。

確かにこんなとんでもないところに、その辺の七歳やそこらの年齢の子がバンバン来るわけないしな。


「そういえば、君はなんで修行を?」

「え、えとですね。両親が死んじゃって……私、その時、何もできなくて、だから」

「強くなろう……ということか」

「はい」


七歳なのに……凄いな。

僕なんかじゃあそんなこと、思えないだろう。


「そういえば」


そう言って僕は話を切り替える。

暗い雰囲気は苦手だ。


「そういえば、君もガレイハさんの弟子ということは、この崖を登ったのかい? 一秒で」

「違いますよ? 私は普通に、入りたいです! って言ったら入れました。他の人もそうだと思います」

「え……」


なんで僕だけ、こんな試練を強いられているんだよおおおおおお!


「まぁまぁ、師匠さんは、ショウ君を強くしようとしてるんですよ。きっと、戦いでショウ君を認めたんです!」

「そうだといいけど……」

「きっとそうです!」


ポジティブだなぁ……。


「あ、すっかり忘れていましたけど……これ、ご飯です」


すると、女の子はおにぎりを数個、僕に手渡した。


「あ、ありがとう」


おにぎり……というか、お米なんてこの世界にあったのか?


「あ、それおにぎりって言うんですけど知ってますか? とっても美味しんですよ!」


あぁ、こう言うってことはやっぱりマイナーなものなんだな。


「うん、知ってるよ。とても」


言って僕はおにぎりを一口。

うん、久しぶりのお米……美味しい。


「あ、そういえば……まだ君の名前、聞いてなかったな。名前、なんて言うんだ?」

「ハルって言います。これからも、よろしくお願いしますね?」


ハル……か。

春のように暖かい笑顔の少女だとは思ったが、名前がハルとは……。


「うん、ハル。よろしく」


今日僕に、新しい友達が出来た。


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