プロローグ
消しゴム……というものを、皆さんご存知だろうか?
こんなのはまあ聞くまでもなく皆が皆知っているものだとは思うけれど、僕はその消しゴムが大好きだ。
どれくらい好きかを具体的に言うならば、僕の部屋の半分が、消しゴムで埋まっていると考えてもらえれば分かりやすいと思う。
親からは色々言われているが、気にしない。
親に言われたくらいで、僕の消しゴムに対する愛は、絶対に消えたりしない。
現在高校一年生である僕、白身消は、恐らく、死ぬまで消しゴムを愛し続けることだろう。
さて、その僕が死んでしまうのは意外にも早かった。
高校一年生、夏休みのことである。
今日もバイトで稼いだお金をギュッと握りしめ、消しゴムを買いに行く。
そしてその道中、僕は浮かれていたのだろう。
信号を無視して凄い勢いで向かってくるトラックに一切、気づかなかった。
やばい……! そう思った時には遅かった。
走馬灯のように、消しゴムのことが頭を巡る。
初めて買って貰った消しゴム……。
今までで一番大きな消しゴム……。
今までで一番小さな消しゴム……。
全部、良いものだった。
僕は死ぬまで消しゴムを愛するものだと思っていたけれど、それは違う。
僕は死んでも消しゴムを愛そう。
僕は生まれ変わっても消しゴムを愛そう。
そう心に誓いながら、僕は今日、死んだ。
目覚めると白い世界……消しゴムのように真っ白な世界だった。
「ここは……?」
思わず呟く。
僕はつい先ほど、死んだはずである。
何故、こんなところにいるのだろうか?
「目覚めましたか」
ふと、そんな声が聞こえ振り向く。
するとそこには美少女がいた。
消しゴムのように白い肌。
消しゴムのように白い髪。
そして、消しゴムのように白い服を着ている。
「だ、誰だよ……。もしかして天使か何かか? 僕はやっぱり死んだのか?」
「私は天使ではありません、神です」
「神……?」
神って……神様ってことか?
「ええ、神です。そして貴方のもう一つの質問に答えるならば、貴方は今日、死にました」
「……そうか」
「トラックに轢かれて一撃。見事な死にっぷりでしたよ」
見事な死にっぷりってなんか嫌な言い方だなぁ……。
「それで、神様。見事な死にっぷりなのは良いんですが、ここは何処ですか? 天国ですか?」
「いえ、違いますよ。天国ではありません。それより、なぜ敬語に?」
「え? そりゃあ神様ですし……」
あれ? 敬語使うのっておかしいのかな?
そんなはずないと思うけどなぁ……。
「それで、神様。ここが天国じゃなければ、一体どこなんですか?」
「うーん、世界と世界の中間点。そう言うのが一番正しいですかね」
「世界と世界の中間点……?」
なんだそれ? 聞いたこともない。
「まぁ……ここが何処かなんて、気にすることはありませんよ」
「どういう意味ですか? 神様」
「貴方を、異世界に転生させます」
「は?」
僕は思わずそんな間抜けな声を出した。
異世界……? 転生……?
訳が分からない。
「実はですね。貴方を轢いたトラック……あれ、私が寝ぼけて操作してしまったのです」
「はぁぁ? ということは、神様。貴方が僕を殺したんですか?」
「はい」
はいじゃねえよ!
そのせいで僕、消しゴム買えなかったんだぞ!
「そのお詫びとして、異世界に転生させてあげます」
「生き返ることは……出来ないのですか?」
「出来ないです」
なんで転生はさせられるけど生き返らせることは出来ないんだよ!
「まあ、その代わりと言ってはなんですが……貴方に一つ、好きな能力を差し上げます」
「好きな能力?」
「ええ、例えば炎を手から出したり、空を飛んだり、重力を操ったりという感じですかね」
おお! それは凄いな。
異世界に転生……そこまで乗り気じゃなかったけど、意外と良いんじゃないか?
「さぁ、能力を言って下さい。私はその能力を与え、貴方を転生させましょう」
神様はそう言いながら、消しゴムのように白い翼を広げ、飛んだ。
その神々しさに、思わず見蕩れる。
そして僕は言った。
「僕が欲しい能力は……どんなものでも消しゴムにする能力です」




