はじまり、またはおわり、そして転換。
夢を見ている。
いや、夢を見ていたのは今までか。
無限にも近しい時間を生きてきたと思ったが、終わってみればそれは呆気なく、いとも簡単に私は『現実』へと帰ってきたのだ。
「鈴」
ずっと嫌っていたその名前は、しかし、彼に呼ばれた時にどうしようもなく特別な言葉と化した。
りん、と鳴る二文字の音が。
たとえようも無い大切な音となった。
「君は帰るんだ、元居た場所へ」
私が首を振ると、彼は泣きそうな顔で笑った。
こっちの方が泣きたいと言えたら良かったけれど、生憎声を出したら嗚咽になってしまいそうで何も言えず、ただ無言で彼を睨み付けた。
「ここに居ても、俺と鈴は同じ時間を歩めない。この世界に居るままじゃ、鈴の時間は止まったままだ」
「……それでも」
「俺が嫌だ。俺が死んだ後に鈴はどうする? 鈴が他の誰かの所に行くなんて、耐えられないよ」
そう言って、おどけたように首を竦めてみせた。そんな場合では無いのに、彼はいつだってそうだった。
良く言ってマイペース。周囲のことを気にしないで振り回すのが得意な彼は、今回も私の事をいとも簡単に振り回し、そうして。
「鈴に全部をあげるよ。これから先の時間を、自然に生きられる世界を、隠れて生きなくても良い自由をあげる」
そう言って、彼は。
どうしようもなくなるくらい優しい笑顔を浮かべて、私を。
手放した。




