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「雪平ナオミです。趣味はソフトボールと剣道です。双子の弟がいます。」
またやっちゃった。これで何人目?
私は雪平ナオミ19歳の大学2年生。本当は趣味も特技もない。いや、あったのかもしれないけど本当の趣味や特技なんて忘れた。
私には虚言癖と妄想癖がある。なんで嘘をつくようになったのか、そんなことはもう忘れた。たぶん、周りからちょっとでもいいように見られたいからだと思う。
そんなこんなで今日も自己紹介でまた新しい私を一人作ってしまった。
「ナオミちゃんはスポーツ得意なの?」
「ええ、体を動かすことは大好きです。」
新しく所属することになった吹奏楽団の先輩が話しかけてきたので、当たり障りのない受け答えをする。
嘘つけ、本当は運動は大の苦手だ。
「それじゃあ、この辺りで失礼します。」
「ああ、見学ありがとう、気をつけて帰ってね。」
一人になると安心する。できるだけ嘘をつかないですむから。本当は嘘なんてつきたくない。これ以上新しい人格を作りたくない。これは本当。でもね、嘘って一つつき始めるともう連鎖が止まらないんだよなあ。
「ただいま」
誰もいないはずの家に帰る。今日は家族全員が外出する予定だった。
「やあ!君がナオミだね!」
誰もいない、はずだったのだが突如目の前に銀髪の髪の青年が現れた。
「っ…誰だお前!どうやってここに入った!今すぐに出て行け!」
ナオミはそう喚くと手直にあったペーパーナイフ青年に向けた。
「わあ、ナオミは強いなあ。僕はねぇ、仮面だよ。名前はまだない。」
どこかで聞いたことのあるようなセリフだ。
「仮面だと…?ふざけてんのか?テメェ!」
「ごめん!怒んないで!でも本当に僕は仮面なんだ!僕は、仮面。君の作り出した人格だよ。」
青年は紫色の双眸をナオミに向けた。
そのあまりの真剣さに思わず黙ってしまう。
「僕は仮面。君を守るために生まれてきたんだ。単刀直入に言うよ。君はこのままだと人間じゃいられなくなる。狐になってしまうんだ。」
「はあ…?」
「とりあえず!僕も今日からここで暮らすからね!」
「おい!ちょっと待て!」
こうして少女と仮面の奇妙な共同生活が始まったのだった。