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琥珀−木蝋燭編−  作者: 蔦川 岬
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−2


「あらあら、そのお守りはこちらのお嬢さん用だったのね」

 喜和子きわこが麦茶を持ってやって来た。

靖彦やすひこくんったら、この色のお守りをずっと探してたのよ」

「え? そうなんですか」

 莉子がきょとんと喜和子を見る。

 麦茶がみっつ並んで、最後に氷がたっぷり入ったポットが置かれると、中の氷の音がカランと涼しげに座敷に響いた。

「ピンクとターコイズブルーの組み合わせが好きだと思ったから、ちょっとこだわってみたんだよ」

 爽やかに笑った路旗の白い歯が。莉子の思考をフリーズさせた。

 ピンクとターコイズの配色は、莉子が持っていた願掛けストラップのお守りと同じ配色だったからだ。

 莉子がそのストラップを購入した時、ピンクとターコイズブルーの配色というのに物凄くこだわったのを、昨日の事のように思い出した。

 そして、同じこだわりで路旗がお守り袋を探して作ってくれたのが、なんとも嬉しい事だったのだ。


(もしかして、路旗さん。もしかして、私の事好きなのかしら)  

 

 そういうイケナイ妄想だけが、思考をやめた脳内に延々と木霊していったその時だった。

 チリンと、縁側に掛けてあった風鈴が鳴った。

「どうも」

 何とも気の抜けた挨拶をしながら、琥珀が座敷に入って来た。

「琥珀くんも冷たい麦茶を飲んで」

 喜和子が路旗の隣を指差すと、「ああ、はい」と琥珀は路旗の隣に座って、ぐぃと置かれた麦茶を飲み干した。

「どうも、おひさしぶりです」

 それから、改めて莉子を真っすぐ見る。

「お、おひさしぶりです」

 莉子もつられたように挨拶を返した。

 去年、馬湧うまうで逢った琥珀より、少しだけ痩せて少し表情に渋さが増したように莉子には見えた。路旗といる時のような心のトキメキはない代わり、琥珀の顔を見た瞬間、すぅっと心が落ち着く気がした。

「お守り、貰っちゃった」

 上目遣いで莉子ははにかんでみせた。琥珀は幾分冷めた目線で莉子を見つめた後、静かに口を開いた。

「受験、泉高校だったんだ?」

 神社の前を通学する高校生の、よく見かける制服だった。

「うん、そうなの」

「これからはいつでも寄っておいで」

 路旗がにっこり笑むと、莉子もとびっきりの笑顔で応えた。

「あの、お守り本当にありがとうございます。私この色凄く好きなんです。なんか嬉しすぎてどうにかなっちゃいそうです」

 うんうんと路旗が莉子の反応に嬉しそうに頷いている。

 そんな二人をよそに、琥珀は覇気のない声で小さく言った。

「悪いけど俺、部屋に戻っていい?」

 この暑さには不釣り合いな青い顔で、微笑を浮かべて二人の返事を琥珀は待っている。

「ああ、構わないよ」

 路旗にそう言われた琥珀は、力ない雰囲気を漂わせたまま、莉子に小さく会釈して部屋を出て行った。

「琥珀さん何だか元気ない感じですか?」

 控えめに莉子は路旗を見上げた。

「うん、少しね」

「いろいろ大変なんですね……」

 莉子には琥珀の大変さなど到底想像もつかない。計り知れない相手にだからこそ、気軽にそういう言葉を吐けるのだとも、そう言いながら思った。

「私にはきっとわからない世界なんですよね。何か力になることがあるわけでもないし」

「そんな事はないよ」

 風鈴がリリンと二度鳴った。ふんわり心地よい風が、汗ばんだ莉子の額を吹いた気がした。

「学業に差し支えない程度で、琥珀くんに逢いに来てくれないかい?」

「え?」

「おかしな意味じゃなくて、純粋に。莉子ちゃんと琥珀くんはあまり歳も離れていないから、気が置けなく話もできるんじゃないかなと、オッサンは思っただけなんだけど、どうかな?」

 自分を敢えてオッサン呼ばわりして路旗はにんまり笑った。そのにんまり笑いが何故か莉子の心をキュンとさせる。

「はい、私でよければ」

 その胸キュンに戸惑う間もなく、笑顔で思わず返事をしてしまっていた莉子である。


(もしかして、琥珀さんも私のこと、好きなのかしら)


 そしてまた、そんなイケナイ妄想が頭を過ったりする、莉子 十五歳の夏、猛暑。



     

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