後悔−1
〔 後悔 〕
琥珀と路旗は、今回の依頼者である如月家の蔵に居た。
如月家の蔵は琥珀達がここを訪れた最初の日と、何ら変わらない風情で庭の奥に佇んでいた。ただ一つ、変わった事といえば、如月が叩き落とした鍵が蔵の入り口に落ちたままで、事実上の開けっ放しの状態だったという事だ。とはいえ、相変わらず蔵の中は辛気くさい暗がりが我が物顔で漂っている。
如月の立ち会いのもと、例の木箱はこの蔵と共に数日ぶりに開かれた。
相変わらず如月は和蠟燭の入った木箱を見ると、極端に嫌な表情でそれを見ていたが、そもそも呪い等という類いをそれほど信じている様でもなく、雑な手つきで二人の前にあっさりと箱を持ち出して開けてみせた。
箱の中には象牙色の蝋燭らしき棒状のものが入っていた。上に見えるのが三本。その下にまだ何本か入っているようだ。
ゆびきりげんまん
ともしびの歌声が琥珀の鼓膜を横切った。
「本当に、指なんてもんが入っているのか」
蔵に入る前に路旗から報告書を渡され一通りの話を聞いた如月が、気味悪そうに中を覗き込んでいる。
心中立ての話を聞いた後の如月は、気味悪がっているのには変わりなかったが、目に見えて興味を隠せないでいるのがわかった。
「確認はお任せします」
路旗は静かに言った。
如月はしばし黙った後、もの言わず箱の中から一本ずつ蝋燭を取り出し、椅子の上に不器用な手つきで並べていった。
古びた木箱の中に、蝋燭は全部で七本あった。
そのうちのどれか一本に、助の小指が入れられているのだ。
確認するのは簡単だった。一本一本蝋燭を折るなりしていけば、小指が出てくるのだろう。はたまた、一本ずつ火を点し、鑞が溶け出た先から指がでてくるのを待つ。そんな方法もあったのだろうが、そのようなおぞましい趣向は如月にはない。
鑞の中に入れられた指が、ミイラのような姿なのかそれとも骨なのか。想像すらできない状況に、誰もがそれを上から眺めているだけだった。
誰一人と蝋燭を手に取り、眺め見ようとする者もいなかった。
「X線にでもかければわかるんだろうけどな」
呟いたのは如月だった。
「これはこれで値打ちがあるような気もするな」
この手の趣向を持ち合わせている人物は、ネット世界で繋がっているこの世にごまんといそうだ。高く売れるかもしれない、と如月の脳裏に福沢諭吉が浮かんだが、思い直したように二人を振り返った。
「この中のどれかに男の小指が入っているんだとしても、どうして女の霊がこれに憑いていたんだろうな」
如月はそう呟いてつまらなそうに首を傾げた。
「霊というか、念です」
正したのは琥珀だ。
「念か。ふぅん、念ねぇ」
納得したようなしないような、曖昧な表情で如月は口をへの字に曲げた。
「これは?」
路旗は一本一本取り出した蝋燭を眺めて、その一本を指差した。
蝋燭の下部の方が黒くなっている。一度炎で炙したようなその所に、なにか細い茶色い異物が見えた。
「なんだそれは」
訝しげに如月が覗き込む。
しばらく沈黙が続いた。
理解したような目をしていたのは琥珀だった。
「わかった。わかりましたよ、路旗さん」
琥珀は何度か頷きながらその蝋燭を見下ろす。
「ともしびの爪です」
その言葉を聞いて路旗も嗚呼と頷いた。
「はぁ? 男の指じゃないのかよ」
如月が怪訝な顔で琥珀に目をやる。
「いいえ、助という男の指もあるはずですが。ともしびという女もここに、ほら」
爪と言われてそうだとも言えない。ただの茶色い異物だ。それが変色している鑞の表面に埋め込まれたと視れば、そうだと言えなくもないという、実に不明瞭なものだった。
だが、琥珀の脳裏に浮かんだのは--




