7 降り頻る雨の中で
最初にタイトルと一緒に浮かんだのが、このシーンでした。
雨の中、どれくらいそうしていただろうか。
「あーあ、何やってるんだよ、君は」
突然かけられた声に、僕はぼんやりと顔をあげた。
そこには、呆れたような顔をして立っている翼がいた。
翼は自分が差していた傘を僕の方へ傾けた。
「っても、もう手遅れだね。ぐしょ濡れだ」
「翼、どうして……」
「比沙子さんが連絡くれたんだよ。ゆんちゃんが出たまま戻らないってさ。心配させるといけないから、うちに遊びにきてそのまま寝ちゃったから今日は泊まらせますって言っておいたよ」
「あ……」
「よろくしね、って言ってたよ。比沙子さん。……まったく、手間かけさせないで欲しいよね。こんな雨の中君を探し回るはめになったこっちの身にもなってよ」
「…………」
「あー、結構重症だな、これは。いつもの君なら、そんなのお前が勝手にしたことだろう、くらいのこと言いそうなのに」
ふーっと溜め息吐くと、翼は僕の顔を覗き込んだ。
「ぶっさいくだね、君。泣き過ぎで、ぼろぼろだ」
「……うるさい」
「まあ、いいよ。ほら、行くよ」
翼は僕の手をつかみ、歩き出した。
「……どこに行くんだよ」
「あのね、話きいてた? うちに泊まらせますって比沙子さんに言ったんだから、行き先は決まってるじゃない」
翼は、前を向いたまま言った。
「しょうがないから、うちに泊まっていきなよ。今夜はたっぷり君の話を聞いてあげるからさ」
初めて行った翼の家は、豪邸と呼ぶのに相応しい佇まいをしていた。
しかも、驚いたことに、住み込みの家政婦さんもいた。
まさに、王子様の呼び名に相応しい住環境も持っていたわけである。
「悪いけど、お風呂入れてもらえる? 服は確か新品のあったはずだよね。出してあげて」
「はい、承知しました」
家政婦さんに案内され、風呂に入った僕は、翼の部屋へと通された。
翼の部屋にはベッドがなかった。
不思議に思っていると、寝室はまた別にあるという。
賃貸のマンション住まいの僕には考えられないような暮らしだった。
「まあ、今日はゆっくりしてってよ。特別なお構いもできないけどね」
翼はそう言うと、ホットコーヒーを僕に差し出した。
僕は、ゆっくりとそれを口に含んだ。
何だかとても、心も身体もあたたまるような気がした。
「じゃあ、話を聞こうか。……って言っても、君がそんな風になるなんて、大体予想はつくけどね」
翼は、どこか痛ましげな様子で僕を見た。
「比沙子さんが、件の先輩と付き合うことになったんだろ?」
再び、僕の涙腺は決壊した。
それが止まるまでずっと、翼は優しく背中を撫でていてくれた。
外では、かわらず土砂降りの雨が降り続いていた。
後2回くらいで終わりです。
たぶん。




