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第5話:Sinkers 後編

ヘルマン・サンダーソンの759人という殺害記録は、Will of the Earthの母体となった当時のアメリカ軍によるカウントだ。正確な数字は神のみぞ知るところだが、50億は下らないだろう。

アメリカ陸軍の狙撃手だったヘルマン・サンダーソンは、国家の運営に必要な要人を片っ端から暗殺して、アメリカ合衆国を滅亡させた。

馬鹿げた話だ。たとえ大頭領ひとり暗殺されても国は滅ばない。社会そのものが保有する自己再生機能が代わりのトップをすげ替えるだけだ。通常ならば。

つまり、彼は社会の自己再生が追い付かないほど、おそらくは迅速に、要人をぶち殺して回ったのだ。

この壊乱工作(?)が原因でアメリカと東側諸国のパワーバランスが崩れ、クリーン水爆による世界大戦に突入した。ここまでは歴史の教科書に載っている。


「ヘルマン・サンダーソンは息子を連れて西アジアに逃亡したとされている。それがセルバ教の修道兵として名を残している。いったいどういう訳だ?そもそもなぜこんなことに気が付かなかった?」

「知ろうとしなかったからですよ。この事実は、ソフィア・カーライルの拘束……もとい、救出作戦には何の関係も無い」


マックは至って冷静だった。僕はついまくしたててしまったことに申し訳なくなる。

マックが宗教本を見つめて言った。


「それ、軍の資料室で見つけました。秘匿される訳でも無く。知ったところでどうしようもない事実なんです。今まで大々的に注目さて来なかったのは偶然かもしれないし、無意識に諦めがついていたのかもしれない」

「文明崩壊という一大事件について、諦めがついていた? 天災のようなものだと? 信じがたいな……」

「それとも、ゴーストのせいにしますか」


これ以上考えても仕方ない。

僕は立ち上がり、整備区画の喧騒に背を向けた。

不整合なあらゆる繋がりは、ひとまず頭の片隅に。


「マック、ブリーフィングだ。海兵隊のライムス大尉にもご同席願いたい。全員叩き起こしてくれ」




30分後。

潜水艦内の手狭なブリーフィング・ルームに、23名の男たちが集められた。僕の同僚である特殊偵察局の二個分隊と、海兵隊のライムス大尉。

同僚の中には眠そうな愚痴もちらほらと。


「ストリクス少佐。予定通りなら、作戦開始まで20時間ですよ。我々は寝るべきだ」


我々の方が予定通りで無くなったからこうしているんだ。寝ぼけているな。


「作戦に変更点が出た。戦力を増強する。海兵隊は正規軍に割り込まれた時の保険のつもりだったが、ライムス大尉には我々の要請に応じて出動して貰うことになる。よろしく」


ライムス大尉はチラとこちらを一瞥したきり、寡黙に腕を組むだけだった。

僕が気に入らないか、そうだろう。でも海兵隊の一個中隊を潜水艦に詰め込んだのは僕じゃない。そこに使える駒がいるから使う、それだけだ。


「それと、『テナガザル』に攻撃オペレーションを組んでやってくれ」


何人かが顔を見合わせた。『テナガザル』は偵察用の生体ドローンで、名の通り猿に似た生物をベースに造られている。運動プログラムはベースの脳ミソに依存しているが、単純な器具なら電気信号を送って使用させられる。


「しかし、あれに火器を扱うだけの知能はありませんが」

「ナイフくらい持てるだろう。人に出来ることは人がやるさ」

「人に出来ないことを、ですか……」


ひとしきりの指示を終えて解散させた後、マックに声をかけられた。


「修道兵は、神の兵士。まさか本気で信じるとは思ってませんでしたよ」

「ただの本を鵜呑みにはしない。一応の安全対策だよ」


僕らは仮定に仮定を重ねて生まれた虚構に怯えているだけかもしれない。だが、修道兵と遭遇する事態に陥ったら、戦わねばならない。

それから部屋で15時間ほど寝て、いよいよ作戦開始の(とき)。最新鋭のスニーキング・スーツと、玩具みたいにガジェットを組み換えられる特殊カービン。初仕事の時は、鏡で自分の姿を見て、半端なSF映画みたいだと笑ったものだ。ドッグでVTOLガンシップが待機していた。続々と隊員たちが乗り込む。

アラートが響いた。ミステリオ級潜水空母が浮上する。

水を押し退ける轟音と共に天蓋ハッチが開き、夜明けの光が僕の目を焼いた。

これより特殊偵察局はソフィア・カーライルを奪還する。作戦、開始。

ブックマークが4件! 今日気付きました。

次回から登場人物がクロスオーバーしていきます。これからが本番と言いたいところです。

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