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第5話:Sinkers 前編

アレン・ストリクスの視点です。そのときの勢いで一人称視点にしてしまいましたが、うまくストーリーテラーに出来ないものかと悩みました。三人の主要人物の中では一番ワイドな思考をする立場なので、舞台背景などの説明に活かしてみます。

僕は仕事がら、敵地に潜入することがままある。作戦中に個人的な記録を残していいような立場じゃない。それでも、僕は衝動に駆り立てられ、メモリーと向かい合っている。自分の行動を他人の視点で振り返るのは、よそよそしくて何だか気恥ずかしい。だからこうして一人称だ。

それにしても、ゴーストに囁かれたのだろうか。古来より海は霊的なモノが堆積する場だと聞く。


そう、僕の乗るミステリオ級潜水空母は今、敵である極東連の領海内にその巨体を沈めている。僕は部下のマックと共に、艦載機の整備区画にたむろしていた。


「しかし少佐、えらくやかましいですね」

「嫌なら部屋で寝てるといい。静かだよ」

「そうでなくて、機体整備やらでこんな派手に音を立てて大丈夫なのかなぁ、と。外じゃ極東連のザトー級が嗅ぎ回ってるみたいですし」

「ここは音波暗室になってる。理論上は音漏れしないらしい」


作業灯は煌々と明るく、VTOLガンシップの整備員たちがマニュアル片手に駆け回っている。彼らが慌ただしいのは、音波暗室の維持に電力を回せる時間が限られているからだ。


「理論なんて信じちゃうんですか。ミステリオ級自体、初の実戦運用だってのに」

「他に何を信じろと」

「伝承とか迷信とか、けっこうアテになるんですよ。海のゴーストに感化されて、超自然的に音に敏感になったり」


大いに思い当たるところがあって、僕は吹き出した。マックは大真面目な顔だ。彼は一冊、宗教関係の学術本を取り出して言った。


「今回だって、セルヴィナの地域宗教にまつわる伝承を調べてきたんです」


セルバ教のことだ。現在カーライル女史が渡り歩いている紛争は、セルバ教徒が極東連に対して仕掛けた独立運動、らしい。ブリーフィング時に話題に出てきたが、救出作戦には関連性が薄いと結論をつけていた。


「生きる糧としての犠牲を肯定する。早い話が、この教義を都合良く解釈して権利向上のために戦争を始めた。セルバ教への認識はこの程度で充分だろう。カニバリズム関連の話は調べる気になれなかった」

「甘いですよ少佐。もしもソフィア・カーライルがセルバ教徒に拘束されてたら、交戦は避けられません」


そんな当たり前なことを云いたい訳でもないはずだ。

マックは神妙に本のページをめくって、ある一節を指さした。


「修道兵。こいつに出くわす可能性があるってことです」


僕がその学術本をぶん取ったからマックは驚いた。興味を惹いたのは、小さく掲載されていた顔写真。日付は15年ほど前。


「ヘルマン・サンダーソン……」


説明は、最後に確認された修道兵とみられる人物、とだけ。それだけだ。まったく説明が足りちゃいない。

だって、こいつは。


「759名。史上最多の殺害記録の持ち主だ。軍学校の教科書に載るくらい、有名な狙撃手だ。さらに言えば、200年以上前に死んだ人物だ。そして最も大切な事だが……」


ひとつ、息をつく。


「こいつは、旧世紀の文明を滅亡させた。人類史上最大の戦犯だ」

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