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第3話:過激派新聞記者 ソフィア・カーライル

おまたせ


ようやく戦闘が入ります。短いけど

まばらな銃声が鳴り止むと、ソフィア・カーライルはセルバ教の民兵たちから離れ、無数に立ち昇る黒煙のひとつに向けて歩き出した。

先刻の戦闘で放たれた対戦車ロケットの一発が、民家に直撃したようだった。

120mm侵徹榴弾を受け、もともと丈夫な構造でない土混合建築の崩壊はさらに近付く。頭上に注意。砕け散った窓ガラスの破片を踏みしめ、中に入る。

まだ土煙が立ち込めていた。瓦礫に足をとられながら目当てのものを探す。

視線を右へ。バラバラの木の板はテーブルだったのだろう。

視線を左へ。天井がすでに落ちてきていた。あまり期待できないが、プレハブの残骸を蹴り払ってみる。

肉の焦げた臭いが鼻を刺激する。喜悲のどちらともつかない、浅い息が漏れた。

子供だった。

損傷は激しいが、取り敢えず人のかたちをしている。


ソフィア・カーライルはバックパックからカメラを取り出し、その亡骸にシャッターを切る。


「記事のネタ集めかい、ソフィアさん。是非とも戦争の悲劇を世界に発信して欲しいね。二度と起こらないように」


後ろから名を呼んだのは民兵の青年だった。ソフィアがこの戦場に着いてからというもの、何かと気にかけてくれていた。撃ったことの無さそうなライフルをもてあそんでいる。


「その手の記事も書くけど、それは悲劇でも大衆にとっては娯楽になるから。あまり期待されても困るわ」


青年は瓦礫の中に膝をつき、子供の亡骸に祈りの言葉を唱えた。


「セルヴィナの主神の加護がありますよう。どうか安らかに……」


この子供が死の定義を与えられる一瞬に感じた痛み、恐怖、憤りが、爛れた皮膚に焼き付いている。結局、死者が安らかでいられるはずがない。だから生者は祈る。


「君は? 祈らないのか」

「結構よ。この子が死んだのは私のせいじゃないもの」

「そうだね、僕たちが責を負うべきだ。実際こういう事があると……正義の所在を疑いたくなる。極東連からの独立といっても、みんな戦うことばかり考えてる。セルバ教の教義は『戦争』なんかじゃないのに」


青年は無為な犠牲を否定しなかった。

聖戦、民族解放。プロパガンダは飽きるほど聴いてきた。


「あなたは平和(ピース)への服従を拒み、自由(リバティ)の為に武器を取った。そっちのほうが好きだったんでしょう? 後悔もほどほどにね」


ソフィアは雲行きを確認して外に出る。経験で言えば、静寂は大規模な範囲攻撃の前触れだ。歩兵は爆撃の邪魔をしないよう撤退するはず。


「ソフィアさん、どこへ行くつもりだ?」


青年は瓦礫の中に立ちつくす。ソフィアは歩みを止めず、答える。


「総本山。大僧正に客人として招かれているの」


轟音とともに、極東連の爆撃機編隊が雲を破って躍り出る。大きくバンク角を取り、指定の戦域に殺戮技術の結晶を投下してゆく。

民兵の青年は、パラシュートを開き次々と地上に降り立つそれを見て叫んだ。


「逃げろ、乱杭歯(デングーソ)だ!」


ソフィアの目の前にも一機が着地する。

脚の付いたコンテナだ、とソフィアは思った。各種レーダー、機関砲、擲弾筒をつき出す姿は、確かに不揃いな歯に似ている。人工筋肉の脚を軋ませ向き直ると、デングーソは対象の脅威判定を開始する。

一瞬のラグ。青年はすかさず発砲。フルオートで剥き出しの脚を狙う。デングーソは崩れ落ち、弾創から白い電導液が噴き出す。とどめを刺すため、ナイフを抜き巨体に飛び掛かる。

だが、ソフィアには見えた。デングーソの機関砲が すでに照準補正に移っている。

非武装の自分が射線に割り込めば、射撃は中断される。そんな思考すら追いつかない。

デングーソが撃った機関砲弾は四発。完璧な反動制御により全弾が命中、青年の身体を粉砕する。

動けない殺戮兵器と赤黒い肉塊が残った。

ソフィアが助かったのは丸腰だったから。おそらく、投降者と判定されたのだ。


「ごめんなさい。でも、あなたのやったことも『戦争』だと思う」


それだけ言い残し、立ち去った。

向かうは西方。セルバ教の総本山、セルヴィナの村落。自分を招いた大僧正の思惑、独立紛争に参加せず沈黙を守る修道兵たち、興味は尽きない。

埃っぽい風が目に染みたが、涙は出ない。大衆が好む悲劇は、それほどソフィアの心には響かなかった。

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