第1話:ジョエル・サンダーソン
早くSF要素を書きたいと思っています。あとバトルも。
「……クイーンは全方向に動く。距離の制限も無い」
「なんだ、そりゃあ。万能じゃないか」
「最強だが、万能とは違う。他の駒を飛び越えることはナイトにしか出来ない」
冬の朝早くから、働きもせずチェスに耽る男が二人。怠け者たちにとっての、冬の風物詩だった。傍らの暖炉が景気良くはぜ、盤を明るく照らす。
「しかし、その騎士を差し置いて最強とは、さぞ豪腕かつ健脚な女王様なんだろうな」
「戦女神のような存在だろう。アテナ、マルス、それにヴァルキリー。例はいくらでもある」
教え役の男は何ともなさげにそう言い、席を立ってラジオを弄り始めた。雪のせいか調子が悪く、垂れ流しの歌謡曲に雑音が入っていた。
「いい考えだ。それにしてもお前、ずいぶんと博識だな。チェスとやらもだが、前時代の神話なんて知ってる奴、そう居ないぜ」
結局ラジオの調子は直らず、男は諦めて窓の外を見やった。ますます吹雪いて、あの退屈で愛すべきリクエスト曲は当分聴けそうにない。
「以前旅先の都市で、図書館という施設に行ったことがある。それぞれの文明圏が造り上げた最高の物語だ…………ところで、大分天気が悪い。お前、いつまで居るつもりだ?」
もう一人の男はチェス盤に夢中で、外には全く気を払っていなかった。慌てて首を向けると、窓一面白銀。
「山の天気は変わり易くていけねぇ。頼む、俺ん家まで送ってくれよ」
「お前が勝手に来たんだろう」
「ちくしょう、せっかくこんな山小屋に遊びに来てやったってのに!」
ひどい反論を受け流してそのまま窓を眺めていると、吹き散る雪に混じって、ふと小さな影が近づいて来るのが見えた。影は家の玄関の前で止まり、律儀に二回、ドアノッカーを叩いた。
「僧正のお使い娘だな。仕事の催促か?ジョエル、俺は隠れるからな」
ジョエルと呼ばれたこの家の主は、こっそり物陰に隠れた友人をよそに客人を出迎えた。
扉を開けたジョエルの目に映ったのは、雪のような白髪の少女。寒冷地戦用コートと相まって、ほぼ真っ白だった。冷たい風に煽られた頬だけが赤い。
「おはようございます、ジョエル・サンダーソン。ご健在で何よりです」
彼女は見た目に合った高めの声で慇懃に挨拶する。あくまで社交儀礼、可愛らしい顔には欠片の好意も見られない。
「大僧正さまより伝言を預かっております」
「上がったらどうだ。なにか出そう」
「お気遣い恐れ入りますが、結構です」
「そうじゃない。俺が寒いんだ。用件なら中で聞く」
吹き込む屑雪に露骨に眉をしかめてみせる。一応として礼節を守る使いの少女は、結局家に上がらざるを得なかった。僅かに不服そうな色を滲ませ、
「では、失礼します。同志ソルジャー……」