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七 攻撃

 千珠は舜海をひきずりながら、舜海の部屋を目指して歩いていた。酔って足元のおぼつかない舜海は重く、そして酒臭いので辟易する。


「おい、何なんだこんなに酔っ払って」

 千珠がぶつぶつ文句を言うと、舜海はしゃっくりをした。

「やっと呪いの傷が癒えたところで、あんな不愉快なやつらと酒なんか飲んでもうたからなぁー」

「まったく、少しは自重しろ」

「だって留衣を嫁にもらうとか、お前に馴れ馴れしく触るとか、いちいち腹たってしゃあないやん」

「留衣をもらう方には怒ったらいいけど、俺のことでつっかかるな。変な噂がたつと面倒だ」

「おお、せやったな。すまんすまん」


 舜海の部屋に着き、足で障子を開いて中に入ると、敷きっぱなしの蒲団に舜海を転がしてため息をつく。舜海はもうすでに半分眠っているようで、うつ伏せに転がされたまま微動だにしない。流石に寝にくそうだと思った千珠は、舜海を仰向けに転がして一枚着物を脱がしてやろうと着物に手をかける。すると舜海は急に目を開け、千珠をがばりと組み敷いた。


「!」

 千珠に馬乗りになり、舜海はとろんと潤んだ瞳で千珠を見下ろした。

「……あんまり他の男に触られたくないねん」

「女なら、いいのに?」

 千珠はまっすぐにその目を見返すと、赤ら顔の舜海は目を細めて微笑した。

「女ならな。でも、兼胤は男でも女でも見境ない奴や、気に食わん」

「俺があいつなんかにやられるとでも思ってるのか?」

「そらないな。でも、気に食わへん」

 そう言うと、舜海は千珠の唇を吸おうと顔を近づけてきた。その瞬間、千珠は掌底で千珠の顎を思い切り打ち上げる。



「うぐぁ!」

 舜海は顎を押さえてごろごろと転がった。千珠はゆっくりと起き上がると、そんな舜海を冷ややかに見下ろす。

「馬鹿。調子に乗るな。城では俺に触るなと言っているだろうが」

「いってぇ……」

 痛みに呻きながらも、ふと気づくと舜海はいびきをかき始めている。千珠はやれやれとため息をついて、立ち上がった。



「二人とも、いるのか?」

 千珠が舜海の部屋を出ようと襖に手をかけたところで、留衣がぱっと襖を開けたものだから、突如目の前に現れた千珠を見て、留衣は大仰に飛び退った。

「うわ!びっくりした!」

「声が聞こえたんだろ?」

「でもまさか、目の前に立ってるなんて、思わないじゃないか!」

 留衣は胸を押さえて息を吐く。



 二人は何となくそのまま、舜海の部屋の縁側に座り込み、舜海のいびきを聞きながら庭を眺めた。三日月が暗い空に浮かんでいる。

「何で宴に来なかったんだよ」と、千珠。

「あんな男むさいところ、行きたくない。どうせ嫁取りの話かなんかだったんだろ?」

「ああ」

 千珠は兼貞の顔を思い出した。学芸に秀でた男、留衣はそういう男は好むのだろうか。


「兄上は何て?」

 留衣は、千珠を窺うように見上げた。いつもは勝気な留衣が、今は不安そうな表情を浮かべて自分を見上げる姿に、少しどきりとする。

「留衣が好いた男と一緒になってもらいたいと思っている、って言っていた」

「そ、そうか!兄上はそのように……」

 留衣は嬉しそうに呟くと、安堵したように笑った。


「東條兼貞殿、知り合いなのか?」

「ああ、昔ちょっと会ったことがある。とても文学がお好きなようだな」

「少し話をしたが……なかなか面白い人だった」

「へぇ、お前が人を褒めるのも珍しいな。私の夫に相応しそうだったか?」

「え」


 留衣の質問に、千珠は詰まった。ちらりと留衣を見ると、留衣はじっと千珠を見詰めている。その目にはいつになく真剣で、その問を否定して欲しいと訴えかけるような色がありありと現れていた。

「いや、お前には、もう少し……強い男のほうがいいような気がした」

「そ、そうだよな。私だって、しとやかにできないことはないが……まぁ多少はやりあえるくらいの男のほうが確かに良いな」

 そう言う留衣は、少し嬉しそうに見えた。



「……お前、好きな男はいるのか?」

 千珠は、ふとそんなことを聞いていた。千珠の言葉が終わるか終わらないかの内に留衣の顔がかっと赤くなる。聞いた当の千珠もつられて気恥ずかしくなってしまい、いたたまれず留衣から目を逸らした。

「すまん、妙なことを聞いた」

「いや……千珠。私は……」

 留衣は何か言いたげな、でも言葉にすることを躊躇っているような息遣いをしている。千珠は、戦でも感じたことのない心臓の激しい動きに、胸を押さえた。

「私は……お前のこと……」



「ぐっ……!」

「千珠?」

 千珠は、突如襲ってきた胸の痛みに悶えた。まるで心臓を鷲掴みにされているような痛み。先程までの甘い動悸ではなく、明らかに外から誰かに攻撃されているような激痛であった。


 千珠は床に手をついて胸を押さえた。だらだらと脂汗が流れ、身体中の細胞が救いを求めて足掻き、視界が滲んでぼやけてゆく。


「胸が……息ができない……はっ、はぁっ……」

「千珠!一体どうしたのだ!舜海起きろ!千珠がおかしい!」

 留衣は後ろで呑気に寝ていた舜海に助けを求め、拳を叩きつけて力任せに起こしにかかった。舜海は顔をしかめて飛び起きる。


「いっ、いたたっ!!何すんねん!?」

「千珠が!千珠が!」

 取り乱した留衣の慌てぶりと、縁側で四つ這いになって悶え苦しんでいる千珠を見て、舜海は目を瞠る。

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