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二十九 気の相性

 

 宇月は、柊と竜胆の手当を手伝っていた。

 柊の傷は大したことはない。しかし部下の竜胆は肩の骨にひびが入ってしまい、しばらくは安静が必要である。

 あの時竜胆は、兼胤が千珠に近付かぬよう、柊から見張りを言いつかっていたのだが、すぐに兼胤に勘付かれ、逆にやられてしまっていたのだ。


 忍装束の頭巾を外した竜胆は、千珠とさほど歳の離れていない少年だった。健康的に日焼けした小麦色の肌に、白い晒しが痛々しい。

「はい、これでいいでござんす」

「ありがとう、ございます」

 ついこの間まで仕置部屋に押し込まれていた罪人扱いの宇月に手当を受け、どう対応していいか分からない様子の竜胆に、柊は言った。



「留衣さまが、この宇月をこの地で召抱えたいと言っているのだ。もう我々の側の人間やで」

「そうですか。確かに、昨日はこの方がいなければ、千珠さまを抑えられませんでしたね……」

「ああ、これで我が国の守りも、また少し厚くなる」

 柊がそう言うと、宇月は罰が悪そうに笑って見せた。まだ、どう反応していいか分からないのだろう。

 



「千珠さまも見てまいります」

「ああ」

 薬箱を持って、東の角にある千珠の部屋へ赴くと、襖の外から声をかける。

「千珠さま、お加減どうでござんすか?宇月でございます」

「入れよ」




 千珠の声がしたので、襖を開けて中に入ると、布団に入って起き上がっている千珠がいた。

「もう起きていて大丈夫でござんすか?」

「ああ、俺はな。それより、すまなかった。お前にも怪我をさせてしまったって聞いて……」

「いえ、私はそういう仕事なもので、こういうことは慣れっこでござんすよ」



 宇月はにっこりと微笑んだ。

 その笑みに、千珠はほっとさせられていた。留衣の暗い表情を見て、更に罪悪感を募らせていたため、気が滅入っていたのである。

「それと……ありがとう。俺を抑えてくれたんだってな」

「それも、慣れっこでござんす。ささ、脇腹の傷を見せてくださいな」

 宇月は何事もなかったかのように明るかった。てきぱきと千珠の脇腹を調べ、薬を塗り、再び清潔な晒しを巻きつけてくれた。



「さすがに、妖力が戻られると回復も早いでござんすな」

「そうだな……」

「こうなったのも、私の責任でござんす。謝られることはないですし、礼などもったいなすぎるお言葉でござんす」



 宇月は千珠の手当を終えると、一歩引いて頭を深く下げた。

「申し訳ありませんでした」

「やめろよ」

 千珠は宇月の肩に触れて、頭を上げさせた。宇月は困り顔で千珠を見返す。

「もう、いいんだ。俺はここで、あいつを殺さずに済んだんだから……。記憶の操作なんて、器用な事もしてもらったらしいじゃないか」

「ああ……お偉い方にはよくやることなのでござんす。お安い御用」

「助かった」

 千珠は、宇月から手を離すと少し微笑む。



「気にされていたのは、舜海様とのご関係のことでござんすね」

「……それも分かるのか?」

「昨日の様子を見ていれば分かるでござんす。あの方は、あなたの気を鎮める鞘なのですね」

「……まぁ、そんなとこだ」

「おふたり、良い相性の気をお持ちですから、私は自然なことだと思いますよ」

「そうかな……」

「ええ、必要なときは求め合ったら良いと思います」

 宇月は何の迷いもない口調で、まるで薬師が患者に告げるようにそう言った。




「……人にそう言われると、安心するもんだな」

「そういうものでござんす」

 宇月はまた、にっこりと笑った。千珠はその笑顔にまた気が緩んでしまい、眠気を感じて、褥にばったりと倒れこんだ。



「もうちょっと寝るよ。舜海への侘びは後にする……」

「その侘びも、おそらく不要でござんすよ」

「……そうかもな」

 千珠は安らいだ表情で、布団に潜り込み寝息を立てた。宇月は千珠にきちんと布団を掛け直してやり、艶りとした銀髪をきれいに整える。

 その寝顔はとても穏やかで子どもらしく、宇月は静かに微笑んだ。

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