二十八 留衣の決心
騒ぎを聞きつけ、道場に駆けつけたものの、妖気を爆発させる千珠の姿を恐ろしいと思った。
これが本当の、千珠の姿か……と。
真っ赤な目と、鋭く伸びた鉤爪、残忍な笑みを浮かべたあの表情。
いつもそこにいる千珠とは、全く違った。彼は妖鬼なのだ。
自分とは、遠く、異なる存在……。
留衣が動けずにいた所に、宇月と柊が駆けつけてきた。柊は迷うことなく道場に駆け込み、千珠を止めようとした。
宇月も、一瞬たじろいではいたものの、柊が弾かれるのを見た瞬間、迷うことなくあの凄まじい妖気の渦中に飛び込んでいったのだ。
そして、怪我をしながらも千珠を止めようとしていた。大の男達が掴まれ、弾き飛ばされているのを目の当たりにしているのに。
自分は、全く動けなかったのに……。
「宇月は、すごかったよ。あんな小さな身体で、お前のことを止めていた。だから舜海も間に合った」
留衣はぽつりとそう言った。千珠は顔を上げて、どこか悲しげな顔をしている留衣の顔を、怪訝な表情で覗き込む。
「どうしたんだ?留衣」
「なぁ、千珠……」
「ん?」
「お前にとって、私は……」
「え?」
何も出来なかった私は、お前にとって、必要な存在なのだろうか。
私は千珠に、恋をしていると思っていた。一緒にいたいと、思っていた。
でも、その全てを、受け入れる覚悟は……あるのだろうか。
「留衣?」
「……いや、どうもない。しばらくは、ゆっくり休めよ」
「ああ、うん……」
千珠を残して、留衣は部屋を出た。
早く兄に会いたかった。
そして、同時に兼貞の笑顔を思い出していた。




