表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/34

二十六 鞘

 ぴく、と千珠の腕が止まる。兼胤を締め上げたまま、声のした方を振り返ると、由宇に支えられた舜海が立っていた。あちこち晒しが巻かれ、浴衣姿の痛々しい舜海の姿をその目に映すと、千珠は兼胤から手を離す。



「千珠、もうええ。こんなこと、やめろ」

「舜海……お前をそんな目に遭わせたやつだぞ」

「俺はこんな傷なんてことない。何を言われても平気や。でもな、お前がこんなやつの血に汚れるのは嫌なんや」



 舜海は由宇を道場の外に留めると、一歩ずつ千珠に歩み寄った。

 千珠の妖力が、徐々に落ち着きを取り戻し始める。舜海はまっすぐに千珠を見つめながら、身体を引きずり近寄った。

「千珠、こっち来い。もう大丈夫やから……」

「……」



 千珠は、表情のない赤い瞳でじっと舜海を見つめている。

 舜海は千珠の側まで辿り着くと、何も言わずに千珠を強く抱き締めた。

 舜海の懐かしい匂いに、千珠はふっと力が抜け、膝が砕けてその場に倒れこみそうになる。舜海はそれを支えると、座り込んでも尚、千珠を抱いて離さなかった。



「怖い思いさせたな、すまんかった。もう大丈夫や、俺も、平気やから……」

「……舜海……俺……」

「良かった、間に合って……」

 千珠の赤い目は、徐々にいつもの琥珀色に戻ってゆく。逆立っていた髪の毛も、爪も、段々と鎮まってゆく。



 柊は宇月を支え、道場の真ん中で千珠を抱き締める舜海の広い背中を見守っていた。宇月も、泣きそうな顔で二人を見守る。

「もう、大丈夫やから」

「……舜……」

 千珠はゆっくりと、舜海の背中に手を回した。そしてゆっくりと目を閉じると、ふっとそのまま意識を無くしてしまった。



 土砂降りの雨の音と、ぼろぼろに崩れた道場の壁と、我を無くして動けない兼胤。反対側の壁の下では竜胆が、肩を押さえ声もなくその様子を見守っていた。



 誰もが無言で、ただ、雨の音と自分の息の音だけが耳に響く。

 舜海は千珠を抱き留めたまま、じっと動かなかった。



 ❀



「……おい、何をしている。怪我人がいるんだ、皆呆けている場合か」

 道場の入り口に留衣が立っていた。強張った顔をしているものの、張りのある声でそう言うと、自らが連れてきた忍や兵を呼び寄せる。

 柊や宇月、竜胆は仲間たちに支えられて道場を連れだされた。兼胤も、兵に両脇から支えられ、手当を受けるべく道場を後にする。



 留衣は舜海の背後から歩み寄り、肩を叩いた。

「おい、大丈夫か」

「ああ……、まったく、こんなことになるなんてな」

 意識のない千珠を抱き上げて、その顔を見下ろす。力を放出しすぎたのか、千珠はぐったりと疲れ果てたような顔色で眼を閉じている。舜海は痛ましい表情で、千珠の身体の傷や痣に視線を巡らせる。

「兼胤にやられて、無理やり封印を解いたんやろう。怖かったんやな」

「……」

 留衣は険しい表情で、千珠を見つめる舜海を見た。



 あの力を目の当たりにして、千珠への態度を変えない舜海の姿が大きく見えた。



 それに比べて自分は……。



「千珠も寝かせよう……お前も、まだ寝てないと駄目だ」

「おお、そうやな。よっこらせ」

 舜海は千珠を抱え直すと、そのまま連れて外へ出て行く。



 留衣は、半壊した道場を見回し、混乱した自分の気持ちを抱えて、ただそこに佇むことしかできなかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ