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二十二 脅し

「賊がどうしたって?」

 千珠が舜海の部屋から出て、数歩歩いた所で、兼胤が待ち構えるように立っていた。腕を組み、唇を歪ませて笑っている。


 土砂降りの雨でけぶる空気の中、二人は目を合わせた。兼胤を姿を見てしまうと、抑えようとしていた怒りの炎が、ゆらりと千珠の胸中に蘇る。ぐっと奥歯を噛み締め、表情に表れぬように努めた


「えらい酷い怪我したって聞いたんじゃけど、具合はどうじゃ?あいつ、昔から詰めが甘かったからなぁ」

「なに、大したことはなかった。そのへんの雑魚にやられたくらいじゃ、あいつはどうもならないからな」

 その言葉に、兼胤はぴくりと眉を動かして笑みを消した。千珠にずいと歩み寄ると、間近で琥珀色の瞳を見下ろす。千珠は動かず、その粘着質な視線を受け止めて兼胤を見上げた。



「女遊びでもして、浮かれて帰ってきたんじゃろう。しょうもない生臭坊主じゃのぅ」

「そうかもな」

「あぁ、違うな。女遊びじゃない、天下の千珠さまとの情事の後で、浮かれとったんじゃったわ」

 兼胤はまたにやりと厭らしく笑うと、低い声でそう言った。

 千珠はぴくりと身体を揺らす。



 そんな千珠の反応を見て、兼胤はさらに目を細めた。

「朝、舜海にも言うたんじゃけど、俺お前らのこと見てしもうたんじゃ。……千珠、お前色っぽかったのぅ。そこいらの女よりよっぽどな」

「!」


 見られていた?こいつに?千珠は自分の油断を呪った。



 兼胤は太い腕で千珠を梁と自分の間に囲い込み、囁く。

「なぁ……千珠、俺にも抱かせぇ。舜海よりもっと、ええ思いさせちゃるけぇ」

「……ふざけるな」

 兼胤は千珠の胸ぐらをぐいと掴み上げ、顔を更に近づけた。体格差がある上に、力も出ない千珠は、やすやすと身体を持ち上げられてしまう。兼胤は千珠の着物の襟をぐいと開き、胸の呪印を見つけてほくそ笑んだ。

「まだ封じられとるみたいじゃな」

「離せ!」

 千珠は焦り、兼胤の手を払い除けようとした。しかし、その腕はびくともしない。



 妖気を封じられていることも、気付かれているのか……!



「舜海にもそう言うたらな、お前に手出すな言うて、阿呆みたいに激怒して殴りかかってきたんじゃ。まぁ、その後あの通り」

「やっぱりお前だったんだな」

「ああ、そうじゃ。二人のこんな関係、皆が知ったらどう思うじゃろうなぁ?特に留衣……お前に恋する留衣殿とかな」

「!」

 千珠は胸ぐらを掴む兼胤の手首を握り締め、爪を立てた。しかし、兼胤は痛がる素振りも見せず、その腕は緩む気配もない。



 ……くそ!力が出せぬことが、こんなにも口惜しく歯痒いとは……!



 千珠の悔しげな表情を見下ろして、兼胤はまた殊更厭らしく笑う。

「可愛いもんじゃのう。まるで子猫とじゃれとるみたいじゃ」

 兼胤がぱっと手を離すと、千珠は咄嗟に後ろに跳んで間合いを取った。

「ここは人が来る。道場の方にでも行くか。今日は誰も来んのじゃろ?」

「……誰がお前の言いなりになるか」

「ほんなら、ええんじゃな、誰に言っても。お前らが稽古付けて、お前らを尊敬しとる若い衆に知られても?」

「……それは……」



 千珠が詰まると、兼胤は勝ち誇ったように高笑いした。

「付いて来いや。剣で俺に勝ったら、黙っといちゃるけぇ」

「……本当だな」

「おお、それなら文句ないじゃろ」


 力では競り負けても、剣術でならば勝機があるかもしれない。

 

 そう思った千珠は気を引き締めると、兼胤の背中を睨みつけながら道場へ向かった。


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