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時間稼ぎをしよう


「まさか本当にASと戦っているなんて……」


 大助達ブラボーチームが巨大ASと戦っているのを遠巻きに見つめて、月陽は言葉を失った。


「月陽氏を見つけましたよー!!」


 風葉が大声でブラボーチームに呼びかけた。

 すると、京士郞と将吾を残して大助だけが風葉達の元にやってきた。


「月ちゃん! 無事だったんだね。怪我はしてない?」


 大助は涙目になり、本当に心配していた様子で月陽の体を見回した。


「私は平気、それよりだいちゃんの方こそ、あんなASと戦っているなんて無茶よ」

「無茶は分かってるけど、やらなきゃならないんだよ。背中のハッチさえ開けられれば、停止出来るんだけど、パスワードがわかんなくて手こずってる」

「パスワード? もしかして、それ英数字十桁だったりする?」


 もしや思いと月陽は大助に訊ねた。


「ああ、そうだよ? なんで知ってるの?」


 大助は眉をぴくりと上げて驚きの表情を見せた。


「これ見て。たぶん先生が置いていったものだと思うわ」

「0mede10www。……おっけー、試してみる価値はありそうだ。やってくる」


 月陽から紙切れを受け取ると大助は再びASに向かって行った。




「頼むぞー開いてくれよなー」


 大助はASの背中に張り付き、祈る思いでパスワードを入力していった。

 最後の文字を入力すると、ガチャという音が響きロックが解除された。

 

「よっしゃ、ビンゴ!」


 喜び勇んで大助はコクピットに飛び込む。一瞬遅れて、ASの腕が攻撃をしかけてきたが、間一髪で回避する。転がるように大助はコクピットに入った。

 コクピット内には四つの椅子が配置され、現在のASよりもかなり広く出来ていた。

 前席の右側が操縦席になっているようで、そこに人影があった。

 

「ASを停止させるんだ」


 大助はその背中に声を掛けた。

 すると、人影はすっと立ち上がって振り返ると言葉を発した。


「おめでとう九十九。よく頑張ったな」


 エクシアはニコリと笑って、ねぎらいの言葉を大助に掛けた。


「な、なんでここに? 錬達と戦ってるはずじゃ?」


 大助は目を丸くして驚く。まさかエクシアがいるとは思ってもいなかった。


「私はアンドロイドだぞ。複数体いてもおかしくはないだろ? ほれっ」


 エクシアはさも当然とばかりに言うと、何かを大助に向かって投げてよこした。


「おっとと。なんだこれ?」


 大助は投げられたモノ落としそうになるが、なんとか受け止めた。


「それはこのASのキーだよ。これで私はASを動かせない」

「そんな大事なもんを簡単に渡しちゃっていいの?」

「ああ良いんだ。コクピット内に侵入出来た時点でお前等の勝ちだ。勝ちといってもこのASを倒したというだけで、もう一人の私を倒して初めて戦争での勝利になることを忘れるな」

「じゃあ、僕の目の前にいるエクシアとは戦わなくていいんだね?」

「どうしても戦いというのならば、戦ってもいいぞ?」

「いやいや、遠慮します」


 大助はエクシアに挑戦的な視線を向けられるが、慌てて断った。


「賢明な判断だ。ちなみに私が戦闘モードになった時の総合戦闘力はこのASよりも上だ。私一体でもお前等十人よりも強いのに、私が二体になったら、戦力差が開きすぎてしまう。私がこのASに乗っていたのはいわゆるハンディキャップなんだよ」

「マジで?」


 さらりと驚愕の事実を言われて、大助は驚いた。


「ああ、そうだ。普通に戦った場合、お前等の勝率は1%以下だよ。もちろんそれだと勝負にならないから、色々と準備をしたわけだ。このASを倒せたのは久遠寺を助け出したからだろ? それで十桁のパスワードを入手出来た。もう一人の私を倒すには、もう一つ何かをしなければならない。それに気付けるかそうじゃないかで勝敗が決まる」

「……それって結構重要なヒントだよね? そんなことしゃべっちゃって良かったの?」

「このASを倒した褒美のようなものだ。……九十九はいつまでここにいるつもりだ? これ以上のヒントはやらんぞ。早く十七夜達の助けに行った方がいいんじゃないか?」

「ああ、分かってるよ。絶対、エクシアを倒してやるからな!」


 大助は捨てセリフを吐きコクピットから飛び出していく。その背中をエクシアは笑って見送った。

 大助が地面に降り立つと、将吾と京士郞がやってきて三人で抱き合った。


「ダイスケやったッス」「やったでござる」

「ああ、僕達はやった。けど、まだ戦いは続いている」


 大助は二人を離して、真剣な顔つきで言い放つ。そこに風葉達も合流してきた。


「ASのキーを奪ったから、このASが暴れることはもうないよ」


 大助はASのキーを持ち上げる。自然と周りのみんなは拍手を送った。


「まだ錬達が戦っている。勝敗は決まっていない。錬達の所に行こう」


 大助達は錬達の元に急いで向かった。





「ずいぶん遅かったじゃないか? 待ちくたびれたぞ」


 ほのかに投げ飛ばされた後、エクシアは錬達が来るのをその場でずっと待っていた。


「なんだよ。待っててくれたのか? それならASの上に戻れば良かったんじゃないか?」


 エクシアの皮肉に錬は負けじと言い返した。


「別にASの上が有利というわけでもないからな、戻る必要はない。むしろ今の方が動きやすくて良い」


 戦闘モードのエクシアは赤い髪をなびかせながら、そう言った。


「そうかよ。そんなこと言えるのは今のうちだぜ。この後ASの上に戻れば良かったと後悔させてやるよ」


 エクシアの言っていることは錬も良く理解していた。しかし、認めれば仲間の士気が下がる。決して認めるわけにはいかなかった。


「ふふふ、それは面白い」


 エクシアも錬のはったりにはもちろん気付いていた。


「んじゃ、悪いけどエクシア。あんたを破壊する」

「ああ、やってみろ」


 棒立ちしているエクシアに錬は手首からアンカーを射出する。アンカーはエクシアの顔面にまっすぐ飛来していく。もし高速で射出されたアンカーが人間の顔に当たったら、人間は大怪我をする。当たり所が悪ければ死ぬ可能性も十分ある危険な攻撃だ。

 エクシアは右手の甲で飛んで来たアンカーの機動を逸らし回避する。アンカーはエクシアの後方にそれたが、地面に突き刺さった。


 錬は伸びきったワイヤーを巻き取る。一瞬でエクシアとの距離を詰め、右手で殴り掛かった。

 エクシアは錬の腕を取ると、背負い投げで大きく後方に放り投げる。錬は半円を描いて地面に叩き付けられた。

 錬が攻撃をしている最中に雪乃は真横に移動していた。両手のアンカーを同時に射出して、エクシアを前後から挟む形でワイヤーが張り巡らさせた。


「今よ!」


 ワイヤーによりエクシアの行動を制限したところで、ほのかが飛びかかった。


「はあああああぁぁぁ!!」


 ほのかはエクシアを押しつぶすように、持ち上げた自動販売機を上から叩きつけた。

 重たい金属の音が辺りに響く、だがエクシアはそれを受け止めていた。受け止められた衝撃で自動販売機から缶ジュースがぽろぽろと何本か地面に落ちた。


「……嘘でしょ?」


 ほのかは驚きを隠せない。

 エクシアは受け止めた自動販売機を雪乃に向かって投げ飛ばした。


「雪乃ちゃん、避けて!」


 ほのかが叫ぶ。しかし雪乃は両手のアンカーを地面に刺しているので、咄嗟に回避行動を取れないでいた。

 雪乃の顔から血の気が引く。恐怖で体が硬直してしまう。

 次の瞬間、自動販売機に二本のアンカーが突き刺さった。


「うりゃあああああああぁ!!」


 錬は両手のワイヤーを力任せに引っ張る。自動販売機の軌道がズレで雪乃にはギリギリのところで当たることはなかった。

 雪乃が一安心する。しかし、次の瞬間体がぐいっと引っ張られ、エクシアの元に引き寄せられる。エクシアが二本のワイヤーを引っ張ったのだ。

 雪乃は小さな悲鳴を上げて、バランスを崩しながらエクシアの元に引き寄せられる。このままだと防御も取れず、エクシアの攻撃を受けることになってしまう。

 エクシアが拳を持ち上げて、雪乃がくるのを待ち受ける。

 雪乃とエクシアがぶつかる瞬間、ほのかが雪乃に体当たりをする。振り下ろされたエクシアの拳をほのかは両腕で受け止めた。


 金属同士のぶつかり合う激しい音と火花が散った。

 エクシアは拳を開いてほのかを腕を握り、引き寄せる。ほのかはバランスを崩してつんのめる。ピンと伸ばされたほのかの左腕を肘と膝で、勢いよく挟み込んだ。

 バキッと鈍い音を立てて、ほのかの腕は関節とは逆方向に曲げられた。辺りにオイルがまき散らせて、ほのかの腕は力なくぶら下がっている。ほのかはよろよろとその場に倒れた。

 錬が雄叫びを上げてエクシアに突撃する。エクシアは後ろに飛び退いてそれを回避した。

 

「おい、鈴城! 大丈夫か」


 錬は倒れたほのかを抱き起こした。


「すんまへん十七夜さん、やられちゃいました」


 心配させまいとほのかは痛々しい笑みを浮かべた。


「……この腕?」


 錬はこの時、初めてほのかの腕が機械義肢メタルアームだということを知った。

 雪乃はエクシアを警戒しているが、エクシアは攻撃を仕掛けてくる様子はない。

「はい、機械義肢や。実は私、両手両足が機械義肢なんや」

「ほのかさんが言っていた秘密って機械義肢のことだったのね」

「…………」


 ほのかは何も答えなかったが雪乃はそれを肯定と受け取った。


「その腕じゃもう戦えないわ。ほのかさんは休んでて」

「すみません」


 ほのかは雪乃に支えられて、安全な少し離れた場所につれていかれた。


「どうして鈴城の腕を折った?」

「どうした十七夜? 仲間の腕を折った私が憎いのか?」


 エクシアは炎のように赤い髪を揺らして、不敵に笑った。


「憎い? 違うね。むしろ感謝しているよ」

「感謝、なぜだ?」

「エクシアは鈴城が機械義肢だって知っていた。だから、俺でもなく神無城でもない鈴城の腕を折ったんだ。そうだろ?」

「ああ、知っていた。そして一番脅威だから破壊したまでだ」

「……脅威ねえ」


 錬はエクシアが明らかに嘘を付いているので、苦笑いを浮かべた。


「おしゃべりをして時間稼ぎでもするつもりか? まあ、それでも構わないが……」

「ああ、そうだ。悪いが時間稼ぎに付き合ってもらうぜ」


 錬は正直に言った。


「時間を稼いで、仲間が増えれば私を倒せると思っているのか?」

「いいや、まったく思ってない」

「なら、なんの為の時間稼ぎだ?」

「そりゃ決まってる。エクシアを倒す為の時間稼ぎだよ」

「……話が矛盾していると思わないのか?」


 エクシアは肩を竦めた。


「矛盾はしてない。この時間稼ぎは増援の為じゃないからな」

「……ほう」

「仲間が増えたところで、エクシアとの戦力差は明らかに開きすぎている。十人、二十人増えたところで戦況は変わらないだろう。それこそ鈴城が万全だったとしても」

「何が言いたい?」

「鈴城の腕を破壊する理由がないってことだよ。そもそも脅威じゃないんだから」

「お前達に負けを認めさせる為の、見せしめだと言ったら?」

「その理由はもちろん考えられる。エクシアが俺達を殺せる機会はいくらでもあった。しかし、エクシアは俺達を殺していない。重傷も負わせていない。つまりエクシアには俺達を殺す、もしくは重傷を負わせてはいけないという暗黙のルールがある。そうだよな?」

「……その通りだ」

「そんなルールがあること自体、戦力差がありますよって言っているようなもんだろ。エクシアが本気を出したら、俺達なんて一瞬で負けてる。なのに未だに戦闘は続いている。というか続けさせさせられていると言った方が正しいだろうな」

「なかなか面白い推理だな。それで?」

「はっきり言えば、エクシアは俺達に勝って欲しいんだよ。アンドロイドと人間の戦争を装っているが、この戦いの本質は、先生と生徒の関係と変わらない」

「…………」


 エクシアは反応しなかった。


「まあ、この辺りは肯定できないだろうな。せっかくのお膳立てが無駄になっちまうし」

「勝負事において、勝つためには相手よりもルールを把握しておくということは重要だ。それと同じぐらい重要なことがある。……それは重要な情報を相手に漏らさないということ。もし相手に知られてしまったら、その情報に対応した行動を相手が取ってくるだろう」

「つまり、時間稼ぎに付き合ってくれるのは終わりってことか?」

「その通り。おしゃべりは終わりだ」


 エクシアが錬の元に勢いよく向かってきた。


「神無城、鈴城を頼む。俺は逃げ回って時間を稼ぐ」


 錬はそう雪乃に告げると、アンカーをモール二階の壁に突き刺して、エクシアから猛然と逃げだした。

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