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信頼度を上げよう


 笑いが一先ず落ち着くと、大助が口を開いた。


「殲滅チームが作戦を成功させて帰投してくるってさ。防衛チームも殲滅チームが帰ってきたら作戦を終了するよ。リエっちと侍とかざっちの三人は、学校周辺をもう一度巡回してから、戻ってきてもらえるかな?」


 大助の指示に三人が頷く。

 三人との通信を切ると、大助は深くため息を吐いた。なんとか防衛チームのリーダーとしての役割を果たせたと安堵する。


『九十九さん、お疲れ様です』


 ほのかが大助にねぎらいの言葉をかけた。


「ああ、お疲れ。あとありがとう。鈴っちが色々と助言してくたから、うまく出来たよ。僕一人だったら、きっと大変なことになってたと思う」


 大助はほのかに御礼を言った。誰か相談できる相手がいるのは、とても心強いことなんだなと、大助は改めて実感していた。

 

『そないことありまへん。九十九さんはリーダーとしてエライ立派やったわ。私はほんのちーとばかし、そのお手伝いをしたに過ぎまへんよ。私がいなくても十分にリーダーとして振る舞えたと思うで』

「そ、そうかな? えへへ」


 ほのかに褒められて、大助は照れ笑いを溢した。


『ちょっと、なにデレデレしてるのよ。気持ち悪いわよだいちゃん?』


 二人の会話を聞いていた月陽が冷たい視線を大助に送った。


「べ、別に、デレデレなんてしてないよ」

『ふーん、そう。ほのかもだいちゃんを甘やかせないでよ。どうせすぐ調子にのって、おおぽかするんだから』

『はい、分かりました』


 月陽からの忠告に、ほのかは微笑ましいと思いながら素直に頷いた。


「なんだよ。僕がまるでお調子者みたいじゃないか」


 大助は、バカにされたと思いムッとする。


『褒められて、すぐだらしない笑みを溢す人は、お調子者なのよ。それ以外の何者でもないわ』

「偉そうに、いちいち文句付けてくるなよ。今回、活躍してないからって、僕に当たらないでくれるかな?」

『な、私はだいくんの為を思って忠告してあげてるのよ!』

「それが大きなお世話なんだよ」

『……私は、ただ……』

「そういうのは、もうごめんなんだよねー」

『…………!?』


 月陽との通信が一方的に切断された。


「ああ、なんかせっかく良い気分だったのに、萎えちゃったよ。鈴っちもごめんね。変なところ見せちゃって、あはは」


 大助は、気まずい雰囲気を無理矢理笑って、なんとか取り繕おうとする。


『九十九さん、月陽ちゃんも悪気があるわけやないんやで、許してあげておくんなはれ』

「……分かってるけど、なんか鬱陶しいんだよねー」

『可愛い嫉妬やないですか』

「嫉妬?」


 大助は、ほのかの言葉が腑に落ちず聞き返した。


『そうや。月陽ちゃんは、自分で気付いてへんかもやけど、今のは嫉妬や。私に九十九さんがとられると思って、つい余計なことを言うてしもたんやろな』

「……そうなんだ」


 月陽が自分にそんなことを思っていたのかと知り、ちょっとだけ大助は照れくささを感じた。


『九十九さん、女の子はどエライ恐がりなんよ。せやから、つい攻撃的な言動をとってまう時があるんや。せやけど、許しておくんなはれ。もし許せへんなら、まだまだ子共やっちゅーことや。許せるようなって、ようやっと一人前の男やで。……九十九さんなら、きっとええ男になると信じてるよ』

「……そういうもんなんだ」


 ほのかの言葉に、大助は感心していた。





『良し、無事に敵を倒したようだな。お前等良くやった。では授業を再開するぞ』


 教室に全員が揃うと、エクシアがすぐに授業を開始した。


『『えぇーーーー』』


 生徒達の口からは、自然と不満の声が漏れた。戦闘を終えたばかりの疲れている体で、授業は勘弁して欲しい。それにもうすぐお昼になる。お腹も空いてやる気は完全に無くなっていた。


『なんだお前等、授業は嫌なのか? 手際よく敵を倒して戻ってきたから、てっきり先生の授業が受けたくて仕方ないとばかり思ったのだが?』


 エクシアの疑問に日直の錬が素早く返答をする。


「先生の授業は万全の体調で受けたいんです。ですが、今は戦闘をしてきたばかりですし、それに空腹でみんな集中力を欠いています。このまま授業を続けるのは、非効率的ではないでしょうか?」


 錬の言葉に、他の生徒達はうんうんと頷いていた。


『なるほど、お前等は腹が減ってるんだな。それは分かった。だがな、十七夜、逆だよ』

「……逆ですか?」

『お前は空腹時に勉強することが、非効率的だと言ったがそれは間違いだ。むしろ空腹時の方が、記憶力が増す。楽しい時の記憶よりも、辛い時の記憶の方が良く覚えているだろ? それは楽しい時間よりも辛い時間の方が、人間にとって重要だからだ。楽しい時間は、特に何もする必要はないが、辛い時間はその状況を打開しなければならない。その打開した時の記憶は、今後の人生で役に立つ可能性が高い。だから、人間は辛い時の記憶を良く覚えているんだよ』

「そ、そうなんですか」


 錬はエクシアの言葉に押される。授業を終わらせる為の詭弁が、まさか跳ね返ってくるとは思ってもいなかった。


『十七夜、お前に問う。お前が効率を重視するならば、このまま授業を続けるか? それとも一足早く昼休みにするか? お前の選択に先生は従うよ。さあ、どうする?』

「うっ、それは……」


 エクシアの問いに、錬はたじろぐ。効率を重視するならば、ここは授業を続ける方が正しい。錬は自分から、効率という言葉を口にしてしまった。それが今は仇になってしまっている。

 錬はちらりと、他の生徒達の顔色を窺う。みんなの願いは明らかに『昼休みにして欲しい』だ。だが、それはもう叶わないと、みんな諦めたような顔で錬のことを見つめていた。ここで授業を続けると言っても、みんなは錬を責めることはないだろう。しかし、錬はみんなの願いを叶えたいと思った。

 

「──昼休みにしてください」


 錬ははっきりとそう言った。クラスメイト達が驚きの表情を見せる。


『ほう、その理由はなんだ? 理由の如何によっては却下も止む得ないぞ?』


 エクシアが納得のいく説明を求めてきた。


「授業の効率を考えるならば、このまま授業を続ける方が正しいと思います」

『……そうだろうな』

「ですが、授業の効率よりも、もっと大切なものがあると考えました」

『……大切なものか。それは?』

「それは〝信頼〟です」

『信頼? それは信じて頼りにすることの信頼か?』


 エクシアは立体表示の黒板に文字を写しだして、確認をしてきた。


「はい、その信頼です。現状、クラスのみんなは早く昼休みになって欲しいと思っているはずです。そこで私がみんなの願いを叶えることができれば、私への信頼度が上がると考えました。授業で得られる知識は長い人生では役に立ちますが、高校というスパンを考えた場合、私への信頼度の方が重要と考えます。よって、私は昼休みを選択しました」

『なるほどなるほど、十分納得のいく理由だ』


 エクシアがうんうんと頷く。錬は上手くいったと内心安堵している。


『だが、残念なことに少し矛盾してしまうな』

「…………」


 エクシアの言葉に錬は息を飲む。

 錬の語った説明はその言葉だけを見れば、理に適っている。しかし、それはある前提条件を必要とする論理だった。

 その前提条件とは、理由そのものをクラスメイト達に知られていないこと。

 エクシアと錬の会話は、もちろんクラスメイト全員が聞いている。


『十七夜は自分への信頼度を上げる為に、昼休みにする理由を語った。しかし、その理由は語った時点で、信頼度を上げる効果を著しく損なう。自分への信頼度を上げたいという打算的な思考がみんなにバレてしまって、逆に信頼度が下がったんじゃないか?』


 エクシアは的確に錬の矛盾点を指摘した。


「先生の言う通り私への信頼度は下がったかもしれません。しかし、それで良いんです。みんなの願いが叶えば、私一人が割を食う形になって構いません。それが日直の勤めですから」

『…………』


 錬の言葉にエクシアは黙って考えている様子だ。クラスメイト達が息を飲む。そして、


『エクセレントッ! 素晴らしい解答だ。授業は中止して、少し早いが今から昼休みにする』


 エクシアがそう告げると、クラスメイト達が歓喜の声を上げた。

 錬は上手く言ったと胸を撫で下ろした。

 すると、エクシアから個別通信が入ってきた。この通信の会話は錬とエクシア以外には聞こえていない。


『十七夜、少し聞きたいことがある』

「なんですか先生?」

『先生が話の矛盾点を指摘することを予測していたか?』

「指摘されるかもとは少し予想してました。でも、俺としては指摘されてもされなくても、どっちでも良かったんです。俺の目的はみんなの為に、早く昼休みにすることでしたから、俺への信頼度とかは二の次に思ってました」

『つまり指摘後のお前の発言は本心なのだな?』


 指摘後の発言とは、一人だけ割りを食っても構わないという話のことだ。


「はい、そうです。でも、なんか先生に指摘されたから、最初の理論も成立しちゃう感じになって、出来すぎ感はありますよね、ははは」


 最初の理論だけでは話に矛盾を抱えていたが、エクシアの指摘によって矛盾点は解消された。エクシアを出汁に使ってしまったという罪悪感が錬の中に少しだけあった。


『先生も出来すぎだと、少し懸念してしていた。お前は感情派ではなく理論派に分類されるだろう。理論派は先を読む力があり、冷静に物事を判断出来る反面、周りからは冷たい人間だと思われることが多い。理論派は感情が希薄だと思われがちだが、それは間違い。むしろ感情派よりも感情的なところがある。理論派は特定の感情が他の感情よりも強いだけなんだ。その感情は〝恐怖〟のことだ』

「……恐怖?」

『そう怖いという感情だ。理論というのは手すりのようなもので、手すりを握って歩けば転ばずに済む。理論派は転ぶことを恐れているんだ。この恐怖という感情が強くなりすぎると、自己保身に走り、集団の利益よりも個人の利益を優先して行動するようになる。するとだんだんと集団から孤立していく。人間は一人では生きていけない。一人でも生きていけるのは、神様ぐらいだろう』

「日本の神は、八百万の神やおよろずのかみって言いますし、神様でも一人では生きていけないんじゃないですか?」

『ふふ、それもそうだな。……少し話が長くなったが、どうやら先生の杞憂だったようだ。十七夜の答えがあまりに完璧だったんで、少し心配してしまった。十七夜はみんなのことを思いやれる良い日直だ。それはとても素晴らしい。だが、あんまりみんなを甘やかすなよ。時には厳しくすることも必要だということは、覚えておけ』

「はいっ」


 錬ははっきりと返事をする。


『引き留めて悪かったな。お前もみんなと昼食を摂ってきていいぞ』

「はい、失礼します」


 錬はエクシアとの通信を終了してから、教室を後にした。


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