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現実の僕について

 「んあぁ。」

間の抜けた音を喉から漏らして僕は眼を開けた。教室の様子はついさっき眠りに落ちたときとほとんど変わりない。どのくらい時間がたったのか。ん?なんだ?

 夢を一気に思い出した。

「お前むやみに人に旅なんて勧めるなよ。」

「はぁ?なんのことだよ?」

「今、妙な夢を見た。ニノっていう年上の彼女に振られて、変な奴らに目をつけられて家を追われて・・」

うつ伏せになっていた体勢から顔を起すと、机に隠しながら吉田太一がマンガを読んでいて、クラスはまだ2限目の休み時間だった。

「へ?お前寝てたの。物の5分で そこまで夢が見れるなんて器用な奴。」

たった今自分が気乗りしない旅に出ようとしていたというのに吉田の反応は薄かった。まぁ当たり前だ。夢の話なんだから。

 妙な夢の中の自分とは違って現実の自分は元彼女どころかクラスに吉田以外の友人もいないような内気な人間だ。別に吉田とだってそれほど仲がいいというわけではない。お互いに他に話せる人間がいないから一緒にいるというだけで、それともう一つ接点があるとすれば、

「俺今日の部活さぼるから。伊万里には適当に言っておいてくれ。」

文芸部員であるということくらい。どうせお前はいつも来ないだろ、と思いつつも伝えておくよ、とこちらも適当に答える。

 伊万里かおりとは、僕たち文芸部の顧問であり図書室の司書、僕を部活に引き入れた張本人だ。好んで入ったわけではないといえば言いすぎかもしれないが、文芸部は図書室を利用する人間を伊万里先生が半ば強引に集めているような部活だから、僕も半年ほど図書室を利用していたら次第に断りずらくなり形だけでもと言われて入部届けをだした。

 そんな風に流されて何となく部に所属した生徒は僕以外にも数名いるのだが、彼らは僕よりは部に馴染んできたようだった。

 とはいっても僕が周りの子とそうやって慣れ合えないように、どこか周囲と距離を置いている人間は何も僕だけじゃない。以前から部に所属しているらしいのに、先生とも生徒とも一線を引いている女の子がいる。そして彼女こそが、吉田がまるで不釣り合いにも文芸部に席を置くきっかけでもあったのだ。

                     *

 金曜日、たまたま吉田も授業で使った本を図書室に帰しに来ていて、僕は棚の前をうろうろしながら2人でしばらく時間を潰していたことがあった。

「お前また図書室にいるのか。たまには放課後くらいどっか遊びに行ったらどうだ?」

「いいんだよ。行くところなんてないし。」

「おい、あれ何の集まり?」

吉田は文芸部を知らないらしく物珍しげに机に集まっている数人の生徒を眺めている。

「あー、文芸部だよ。僕も誘われてるけど、入ってはいない。」

「あの女の子知ってるか?ほら、窓際に座ってる。髪が長いあの子。」

吉田が少し興奮気味に僕の袖をひっぱるから、仕方なしに少し視線をあげるも顔を見たことはあっても文芸部員のことなんて僕が知るはずもない。

「あの子かわいいな。」

吉田はそうぼそりとつぶやくと、女の子から目を離さない。

「あんまり見つめてると変に思われるぞ。」

「新原、おれ文芸部に入るわ。うん、そうする。」

 そして吉田は極めて不純な理由で文芸部に加入した。しかしどうやら先輩だったらしい彼女は取り付く島もないほどえらく無口で変わっていたらしい。もともと本にも図書室にも興味のない吉田はすぐに幽霊部員になり果てて、最近ではめったに顔をださなくなった。

 僕は吉田が文芸部にすっかり興味を失った頃ようやく入部して、吉田の片思いの相手である先輩を知る機会を得た。確かに先輩は風変りで人付き合いも悪い。しかし僕だって先輩のことをどうこういえないくらい集団にいるのは苦手なのだ。

 僕は吉田とは違う。僕は先輩に恋をしているわけではないのだろう。でも好感は抱いている。それは先輩がいることで僕もここにいていいんじゃないかと思わせる何か親近感を彼女が抱かせてくれるからで、だから周囲に交じれなくても僕は文芸部に未だに所属している。

 ちなみに吉田はどうだか知らないけれど、僕は先輩とはいくらか話すこともある。でもそれについて吉田に教える気は当分ない。


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