第十話 二頭
「全員、聞け」
六人が、レインを見た。
「王都へは、行けない」
「……レイン」
「行けない。少なくとも、この道では行けない」
彼は、そう言った。
「だから、行き先を変える」
「どこに」
「南だ」
レインは、地図を指した。
「ドラン砦町。城壁がある」
「……あそこの町長、動いてないわよ」
「動く」
レインは、言った。
「今なら動く」
彼は、地図を畳んだ。
「そして、あの町から王都へ、早馬を出す。俺たちが行けなくても、情報は行ける」
「行けますかね」
ケリムが言った。彼は、肋を押さえていた。
「俺たちが行けないのに、早馬なら行けるんですか」
「わからない」
「わからないですか」
「わからない」
レインは、そう答えた。
「だが、試す価値はある」
「……なんでですか」
「あれは、俺たちを止めている」
レインは、白いものを見た。
「俺たち七人を、だ。他の人間まで止めているかどうかは、わからない」
彼は、そう言った。
「もし、俺たちだけを止めているなら、他の人間は通れる」
◆
ユートが、板を開いた。
「レイン」
「なんだ」
「早馬、二頭出そう」
「二頭?」
「一頭は捕まるかもしれない」
彼は、そう言った。
「二頭出して、別々の道を行かせる。片方が捕まっても、片方が着く」
レインは、彼を見た。
「……それは、どこで覚えた」
「詰所」
ユートは、板を閉じた。
「大事な書類は、写しを二つ作って、別の便で出すんだ。片方が焼けても、片方が残る」
「三部作ったと言ったな」
「言った」
「今、どこにある」
ユートは、指を折った。
「一部、ミレド町の宿の主人。王都行きの早馬に託す手筈」
「それは、もう出ているかもしれない」
「かもな」
「二部目は」
「ハーヴさんのおっさん。街道を回してる」
「三部目は」
「……ドラン砦町の門番の子にやった」
レインの動きが、止まった。
「……全部、手元にないのか」
「ない」
ユートは、そう答えた。
「でも、頭に入ってる」
彼は、こめかみを叩いた。
「二週間書き続けたからな。全部覚えてる」
「……ユート」
「なんだよ」
「今夜、書け」
「書く」
「四部目だ」
「書くって言ってるだろ」
ユートは、板を掲げた。
「あと、今日の分もな」
彼は、そう言った。
「空が裂けたのと、六本足の通せんぼと、ヴァルギアと、幹部四人と、道が入れ替わってるやつ」
彼は、指を折った。
「五つ増えた」
レインは、頷いた。
「五つだ」
彼は、馬首を巡らせた。
「南へ。ドラン砦町へ」
◆
走り出したとき、レインは一度だけ振り返った。
白いものが、まだ立っていた。追ってこなかった。追う必要が、なかった。
その姿を、レインは長く覚えている。覚えていて、そして——その姿を、二度と見ない時間軸があることを、この時の彼は知らない。




