第二話 道を塞ぐもの
半刻走った。道が、塞がれていた。
最初に見えたのは、荷馬車の列だった。王都へ向かう隊商が、道の上で止まっている。二十台ほど。人数にして、五十人はいるだろう。その先頭に、人だかりができていた。
「……何かあったな」
グレイが言った。
「馬を落とします」
レインは、速度を落とした。人だかりが、こちらに気づいた。気づいて、割れた。
割れた先に、それがいた。
六本足だった。街道で見た死骸と、同じ形をしていた。前が四本、後ろが二本。後ろの二本で立っている。
だが、大きさが違った。牛ほどでは、ない。馬より、大きかった。
それが、道の真ん中に立っていた。立って、動かなかった。
◆
「……騎士様!」
隊商の男が、駆け寄ってきた。四十過ぎの、日に焼けた男だった。
「助けてください! 一刻前からです! こいつが道の真ん中に立って、動かないんです!」
「襲ってこないのか」
「襲ってきません!」
男は、そう言った。
「でも、通ろうとすると——」
その時だった。隊商の若い男が、痺れを切らして荷馬車を動かそうとした。馬に鞭を入れた。荷馬車が、一歩前に出た。
六本足が、動いた。速かった。前肢の一本が、伸びた。
荷馬車の車輪が、砕けた。馬車が横倒しになり、若い男が投げ出された。積荷が散らばった。
悲鳴が、上がった。
だが、六本足は、それ以上動かなかった。伸びた前肢を、ゆっくりと戻した。そして、また道の真ん中に立った。
投げ出された若い男は、地面に倒れたまま動かなかった。しばらくして、震えながら、後ずさりで戻ってきた。怪我は、していなかった。
◆
レインは、その一部始終を見ていた。
「……グレイさん」
「はい」
「今の、見ましたか」
「見ました」
「あれは、殺そうとしなかった」
「はい」
グレイの声が、低かった。
「車輪だけを、狙いました」
二人は、しばらく黙っていた。
「……隊長」
「なんですか」
「あれは、番をしております」
「番」
「番です」
グレイは、そう言った。
「殺しに来たのではない。通すな、と言われて、そこに立っている」
レインは、六本足を見た。それは、動かなかった。目があるのかどうか、わからなかった。頭部に、目に見える器官がない。だが、確かに、こちらを向いていた。
「……ユート」
「なんだよ」
「書け」
「もう書いてる」
ユートは、板に線を引いていた。
「『通ろうとした荷馬車の車輪だけを破壊。人には手を出さず』——これでいい?」
「いい」
「……なあ、レイン」
「なんだ」
「これ、通せんぼじゃん」
「そうだ」
「なんで通せんぼするんだよ」
レインは、答えなかった。答えは、一つしかなかった。王都へ、行かせたくないのだ。
◆
「……隊商の人」
「へえ」
「一刻前と言いましたね」
「言いました」
「その一刻、こいつはずっとここにいましたか」
「ずっとです」
男は、そう答えた。
「動きません。飯も食いません。俺たちの方を見てるだけです」
「他に来た者は」
「いません。ああ、いや」
男は、思い出したように言った。
「後ろから来た荷馬車が二台、引き返しました」
「引き返した?」
「へえ。こいつを見て、怖くなったんでしょう」
レインの中で、何かが噛み合った。
「……引き返した二台は、追われましたか」
「いえ」
「追われなかった?」
「追いませんでした。こいつ、動きませんでしたから」
レインは、六本足を見た。
「グレイさん」
「はい」
「南へ戻る者は、通す」
「……そのようですな」
「北へ、いや——王都へ向かう者だけを止めている」
彼は、剣の柄に手をかけた。
「これは、番ではありません」
「では、なんです」
「堰です」




