表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔王軍に追放された軍配者、外れスキル〈戦場俯瞰〉で辺境から異世界統一を始める』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/64

第28話 集まる者には、善意だけでなく思惑もある

人が集まり始めた場所は、そこで初めて本当の意味で試される。


善意だけで人は来ない。

救いを求める者もいれば、利を嗅ぎつける者もいる。

様子見の者もいれば、今のうちに食い込んでおこうとする者もいる。


フロストゲート砦の南門前は、この日、それを分かりやすく見せた。


昼過ぎ、曇り空の下に現れたのは、小さな商隊だった。


荷車は一台。

馬ではなく、頑丈なロバに近い獣へ引かせている。

荷は布と塩と乾燥肉、あとは雑多な金物。

規模としては大きくない。

だが、小さすぎるわけでもない。


そして一番重要なのは、その顔つきだった。


先頭に立つ男は四十前後。

痩せているが細すぎず、服は泥で汚れていても破れを放置していない。

商人らしい笑顔を浮かべてはいるが、目だけは門や壁や兵の配置を測っている。

つまり、“ただ物を売りに来た顔”ではない。


ラグが門の内側でぼそりと言う。


「嫌な顔だな」


「ええ」


レオルドも同意した。


「でも、こういう顔は必要です」


「必要なのかよ」


「少なくとも、来るようになったという事実は」


商人の男は門前で両手を軽く広げた。


「穏やかな商いをしに来た者です」


セラが後ろで鼻を鳴らす。


「そう言う奴で穏やかなの見たことないよ」


アイザックは門をすぐには開けず、低く問う。


「名は」


「サイラス」


男はにこやかに答える。


「南寄りの崩れ道を伝って物を運ぶ、小さな商いです」


「小さいにしちゃ、目がよく動くな」


副官のその一言に、門前の兵たちが少しだけ口元を緩める。

だがサイラスは笑顔を崩さない。


「商人は目を動かして食ってますので」


その返しは悪くなかった。


レオルドは少しだけ前へ出た。


「フロストゲートが今、何を必要としているかも見ていますか」


サイラスの視線が、初めてレオルドへ止まる。


「あなたは?」


「軍配者です」


商人は一瞬だけ、ほんの少しだけ、目を細めた。


その反応で、レオルドは理解した。

こいつは、もう噂の中でこちらの名前くらいは聞いている。


「なるほど」


サイラスはわずかに笑みを深くした。


「そういう顔だ」


「どういう」


「物の流れを先に見る顔ですよ」


ラグが横で小さく舌打ちした。


「気持ち悪い同類じゃねえか」


レオルドは聞こえないふりをした。


門前での確認のあと、商隊は荷を簡単に改められ、内側の限定された場所へ入れられた。

完全に信用して通すわけではない。

だが追い返す理由もまだ足りない。


小部屋で向かい合うと、サイラスはさっそく本性の一端を見せた。


「いいですねえ、ここは」


「そうですか」


レオルドが答えると、商人は指を組む。


「ええ。まだ痩せている。でも痩せているからこそ、伸びる」


その言い方は、土地を見る商人のそれだった。

目先の売買だけではなく、場所そのものの“太り方”を見ている。


ミレナが横で冷たく言う。


「太る前に死ぬ可能性も高いわよ」


「もちろん」


サイラスは平然と頷く。


「だから見に来たんです。

死ぬ場所なら、次からは寄らない。

生きる場所なら、先に繋いでおく」


その露骨さに、ラグは顔をしかめた。


「感じ悪いな」


「商人ですから」


サイラスは悪びれもしない。


レオルドはむしろ、その露骨さを少し評価した。

変に善意だけを装う方が面倒だからだ。


「何が見えました」


レオルドが訊くと、商人は少し考える素振りをしてから答えた。


「門前が前よりまし。

兵の立ち方も前よりまし。

村と砦の人間が、一応同じ方向を向いてる。

あと、旧中継小屋を取ったのは大きい」


ミレナの目が少し鋭くなる。


「そこまで知ってるの」


「知りますよ。道を売るのも商いのうちです」


その一言は、嫌なほど本質的だった。


商人は物だけでなく、道と情報も運ぶ。

その意味では、兵と同じくらい“線”に関わる存在だ。


ドルゼンが小さく鼻を鳴らす。


「で、何が欲しい」


サイラスはにこやかに答えた。


「まずは安全な往来。

次に、こちらが塩や金物を置ける確信。

最後に、この先もフロストゲートが持つという見込み」


アイザックが低く言う。


「随分と欲張るな」


「商人ですから」


同じ返しを二度使うあたり、面の皮が厚い。

だが、求めているものは分かりやすい。


レオルドは少し考え、それから言った。


「こちらも欲しいものがあります」


サイラスが楽しそうに目を細めた。


「ほう」


「街道の今の空気です」


「空気、ですか」


「ええ。

どこが死に、どこがまだ通り、誰が今どこで利を得ているのか。

そこが知りたい」


商人は小さく笑った。


「やはり、そういう顔だ」


「褒め言葉として受け取ります」


「それ、便利ですね」


「かなり」


横でミレナが小さくため息をついた。


その後のやり取りで、サイラスは完全な味方ではないことがよく分かった。

だが同時に、利用価値も高い。


南の崩れ道。

塩が今不足している集落。

逆に布が余っている場所。

敵の小隊より、先に噂が通る村。

そうした“地図に書ききれない線”を、商人は確かに知っている。


「厄介だな」


話し合いのあとでアイザックが低く言う。


「はい」


レオルドは頷く。


「でも必要です」


「それも分かるから余計厄介だ」


ミレナも同意した。


「ああいう人間を完全に締め出すと、今度は別の場所に流れる。

こっちの知らないところで流れを握られる方が怖い」


その判断は冷静だった。

だからこそ頼もしい。


夜、レオルドは記録帳へ書く。


【第二十八日 所見】

・人が増える=利と面倒も増える

・商人サイラス、胡散臭いが有用

・ 完全排除は悪手、ただし信用しすぎも悪手

・ 勝った砦は“試しに来る場所”でもある


最後に一文を加える。


【所感】

集まる者は善意だけで来ない。

だが思惑のある者ほど、使い方次第で大きな線になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ