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能力と歌声

今回は、エルの「歌」と、ちょっとした能力のお話です。

堕天使なのに賛美歌。

照れながらもどこか誇らしげなエルと、素直すぎるなおき。

そして、ほんの少しだけ見える――

彼女の昔。甘くて、静かで、少しだけ距離が縮まる回になっています。

どうぞ、ゆっくり読んでください。


本日21時からも続編投稿します!そちらも楽しんでいただけたら嬉しいです



なおきの問い返しに、エルは当然のようにこくりと頷いた。


天使だった頃、朝に賛美歌を捧げるのは毎日の習慣だった。


鳥たちとさえずり合うのも、大好きだった。


「結構、上手だよ。……たぶん」


少し照れくさそうに笑う。


けれど、その表情にはどこか自信ものぞいていた。


「どんなのがいい?

元気になるやつ?

それとも落ち着くやつ?」


「うーん……落ち着くやつかな。

エルの歌、楽しみだ」


その一言に、エルは嬉しそうに目を細めた。


窓辺まで歩き、夕暮れの光を背にする。


金色の髪が淡く輝き、小さな天使がそこに立っているようだった。


「じゃあ……

ぐっすり眠れそうなのにするね」


ふと、なおきが思い出したように口を開く。


「そういえばさ、エルって、歌以外にも能力とかあるの?」


「あるよ」


人差し指を一本立てる。


「例えばーーこれ」


ぱちん。


小さな光が弾けた。


次の瞬間。


白いシャツとスカートは、純白のワンピースへ姿を変える。


頭上の輪も淡く輝きを増し、まるで神話から抜け出してきた天使そのものだった。


「どう?」


少しだけ照れたように裾をつまむ。


「昔は、こんなの着てたの」


なおきは思わず息を呑む。


「……可愛い。」


そのあと慌てて首を振る。


「いや、綺麗だ。すごく似合ってる。」


エルの思考が止まった。


「……え?」


耳まで真っ赤になる。


視線が泳ぎ、落ち着かない。


「か、かわいいとか…そういうの急に言わないでよ……」


指先をもじもじと絡める。


しばらく黙ったあと、小さく笑った。


「…でも、ありがと。」


その笑顔は、少しだけ誇らしそうだった。


「一回だけ歌うから、ちゃんと聞いてね。」


「もちろん。」


なおきは姿勢を正した。


エルは静かに目を閉じる。


両手を胸の前で重ねる。


そしてーー歌い始めた。


透き通る歌声が、部屋いっぱいに広がっていく。


旋律というより、光が音になったような不思議な響き。


聞いているだけで胸の奥の緊張がほどけていく。


疲れも、不安も、ゆっくり溶けていくようだった。


やがて歌が終わる。


静かな余韻だけが残る。


エルがおそるおそる尋ねた。


「……どう、だった?」


なおきはしばらく黙ったまま天井を見つめ、


ぽつりと呟く。


「落ち着くどころじゃない。」


「え?」


「毎日これ聞いてたら、僕、ダメ人間になるやつ」


「なにそれ!」


真っ赤になって頬を膨らませる。


けれど、口元は嬉しそうに緩んでいた。


「じゃあ毎日歌ってあげる!」


そう言って一歩近付く。


「ねぇ、お腹すかない?」


悪戯っぽく笑う。


「また甘いパンケーキ食べたい。」


「また!?さっき食べたばっかりじゃん!」


エルはきょとんと首を傾げた。


「さっき食べたのは商店街のパンケーキ!今から食べるのは家のパンケーキ!!全然違うでしょ?」


「発想が…」


いや。


朝昼晩という感覚自体が、人間ほどはっきりしていないのかもしれない。


そんな気もした。


エルは少しだけ俯く。


「お昼……なおきと一緒に食べたから、すっごく美味しかったの。」


ゆっくり顔を上げる。


「だから……また一緒に食べたい。…だめ?」


なおきは思わず笑ってしまう。


「だめなわけないじゃん。」


「!」


「ホットケーキミックスあるし、作ってあげるよ。」


「ほんと!?」


ぴょんっと跳ねる。


その勢いのまま、なおきへぎゅっと抱きついた。


「楽しみ!さくらんぼいっぱい乗せてね!」


「あーさくらんぼはないなぁ。冷凍ブルーベリーならある。」


「えぇー。」


一瞬だけ拗ねる。


けれどすぐ笑顔になった。


「じゃあ今度、お店でまた食べたい。」


「うん!その時はさくらんぼ付きね。」


「えへへ……」


もう一度だけ軽く抱きつき、名残惜しそうに離れる。


「じゃあ作ろ!私、なにする?」


その姿を見て、なおきは苦笑する。


「……1700歳、だったっけ?」


ぴたりと止まる。


「なによ。」


じろりと睨む。


「子供っぽいって言いたいの?」


腰へ手を当てる。


「私はあなたより、ずーっと年上なんだからね!敬いなさい!1700歳よ?…たぶん。」



実はその先は、もう何百年も数えていない。


いつから1700歳のままなのか、自分でも覚えていなかった。


なおきは笑う。


「その割には、くっつきすぎじゃない?」


「っ……」


図星だった。


しばらく口をもごもご動かし、


観念したように呟く。


「……だって。人にくっついたことないから。」


少しだけ頬を染める。


「なおき……あったかいし。」


昨日、お風呂に入っていないことは黙っておこう。


なおきは苦笑した。


悪い気は、しなかった。


「くっついてもいい?」


「いいよ。」


その瞬間。


エルは迷いなく膝の上へすとんと座った。


背中を預け、


安心したように息を吐く。


「ん……」


肩へ頬をすり寄せる。


「ここ、好き。」


「ねぇ、パンケーキ作るんでしょ?」


そのまま動かない。


「私、こうしてるから作って?」


「このままだとエルまで焼くけど?」


「なんでよ!」


ぷくっと頬を膨らませる。


「できるもん、きっと!」


なおきは笑いながら立ち上がり、


ボウルを渡した。


「じゃあ、これ混ぜて。


食べたいんでしょ?」


エルはボウルを受け取る。


一瞬きょとんとして、


にやりと笑った。


「ふふっ。任せて!」


胸を張る。


「1700年分の経験、見せてあげるね!」


なおきはボウルとエルを見比べ、


心の中でそっと呟いた。


ーーなんか、すごく嫌な予感しかしない。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

今回はエルの歌と、元天使らしい姿をちらっと出してみました。

なおきがエルを可愛くて褒めた所は、私も書いてて楽しかったです(笑)

エルは褒められ慣れていないので、これからもたぶんすぐ赤くなります。

そして――

結局パンケーキ。

この二人、甘いものと距離感の詰め方が比例している気がします。

次回も少し甘めにいく予定です。

ブクマ・評価・感想、いただけると嬉しいです!

そろそろギア一段上げますのでお楽しみに!!

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