失いたくない夏夜 花火
いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。
今回は、夏の終わりの花火のお話です。
にぎやかな時間の中にある、少しだけ大人びた瞬間。
見上げた夜空よりも眩しいものが、きっとあるはずで――
そんな一夜を、三人と一緒に感じてもらえたら嬉しいです。
「あっ」
一筋の光が、夜の底をまっすぐ駆け上がる。
次の瞬間――
ドン。
腹の奥まで震わせる音とともに、夜空いっぱいに大輪の花が咲いた。
赤、青、金。
遅れて降り注ぐ光のかけらが、街の灯りと溶け合う。
エルの肩が小さく跳ねる。
「びっくりした?」
「してない」
即答なのに、首にぎゅっとしがみつく。
ミニエルも反対側から腕を掴む。
「ありがとう」
小さくそう言ってから、エルはトンと地面に降りた。
「お姉ちゃん、足治したら?」
「……しっ!」
「治るの?!」
「えー、はい!治り…ますかね……?!」
「エルさん!?」
「だって!優しくしてほしかったんだもん……だめ?」
少し上目遣い。
「まあ、嫌な気持ちはしないかな」
「お姉ちゃん、よかったじゃん!」
「うん!!」
「どっちがお姉ちゃんか分かんないよね」
「それ言う!?」
「あはは」
次の花火が咲く。
夜が一瞬、昼のように明るくなる。
その光に照らされる二人の横顔は、さっきまでのはしゃいだ顔とは違っていた。
静かで、どこか大人びた目。
「ねぇ、なおき」
「ん?」
「人間って、すごいね」
「急にどうしたの?」
「こんなきれいな音と光、つくれるんだよ?」
金色の花火が空いっぱいに広がる。
光の雨が、ゆっくりと降りてくる。
エルはその光を見上げたまま、小さく息を吸った。
「わたしね、天界から下界を見るの好きだったの」
夜風が、浴衣の袖を揺らす。
「でもね、見てるだけだった」
ドン、とまた空が鳴る。
「今日みたいに、音が体に響いて、匂いがして、甘くて、あったかくて……横になおきがいて」
腕を掴む手に、少しだけ力がこもる。
「……今のほうが、ずっと好き」
その言葉が、花火よりも強く胸に残った。
僕は思う。
夜空に咲く光も綺麗だけど、
そのたびに照らされる二人の横顔のほうが、ずっと眩しい。
この瞬間が、いつか思い出になるとしても。
きっと今日の色は、消えない。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
⸻
「来年も来ようね」
「うん!」
「うん!」
「ずっと来ようね」
最後の大きな花火が、夜空を覆い尽くす。
まるで夏そのものが、光になって弾けたみたいに。
歓声。拍手。
そして、すっと訪れる静寂。
さっきまで賑やかだった夜が、急に広くなる。
遠くの街の灯りが、また静かに瞬き始める。
この夏も、終わる。
エルは袖を離した。
代わりに、こつん、と額を胸に預ける。
体温が、じんわり伝わる。
気持ちのいい夜風が、汗ばんだ頬を優しく撫でた。
「エルが風吹かせたの?」
「違うわよ!」
「時間返しなさいよね!」
隣でミニエルが首をかしげる。
「僕こんな夏初めてだ、ありがとう」
夜空にはもう花火はない。
それでも、さっきまで咲いていた光の残像が、目の奥にまだ残っている。
胸の中にも。
夏の終わりは、
少しだけ甘くて、
少しだけ切なくて、
とても綺麗だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
夏の終わりって、どうしてあんなに綺麗で、少しだけ切ないんでしょうね。
花火は消えてしまうけれど、
一緒に見た人の温度や言葉は、きっと消えない。
そんな想いを込めた回でした。
また次のお話もお楽しみに!




