プロローグ : 異世界のグラスに映る影
ネオンライトの煌めく街、銀座の喧騒の中で、私はとある店のNo.1を2年ほど君臨していた。名前は麗華。
No.1になれたのはもちろん多くの太客がいたから。でもこの仕事で傲慢になることは命取りだというのを私はよく分かっている。ランキング上位に入ったことを自分の実力だと勘違いして落ちていった女の子を何人も見てきた。
そして、この仕事は確かに若さや美しさといえものを売る商売ではあるが、それと同じくらいかそれ以上に大事なことは知性だと私は思っている。なぜならありとあらゆる業界の方々が来られるからだ。政治家、1代で世界規模の大企業にまで大きくしたオーナーや社長、裏稼業の方、芸能人、スポーツ選手、伝統芸能、囲碁や将棋の棋士、ありとあらゆる方々がこの銀座という街にはやって来る。
この仕事は常日頃から勉強をしないといけないと思う。この業界に来る女の子のほとんどは可愛ければ、美しければそれでいいと思っている。私はそれでは短命に終わると思っている。特にこの銀座では、それ以上を求められる場所だと思っている。
ホステスとして、どんな小さなことも見逃してはいけないと思っている。
例えば、お客様の挨拶の仕方一つとってもそこにサインが隠れていることもある。
お酒のオーダー、キャストへの話し方、仕草、声の抑揚、顔の表情、オーラ(雰囲気)
全てが私達にとっては情報になる。
そこを見逃さず、相手の懐に入っていく。
それが我々ホステスの仕事である。
そこに価値が生まれる。
だが、そんな人生が一瞬で変わったのは、ある雨の夜。店からの帰り道、信号待ちの交差点で。トラックが滑り込み、視界が闇に飲み込まれた。痛みすら感じなかった。ただ、冷たい虚空が私を包んだ。
目が覚めた時、そこは見知らぬ森だった。
木々が空を覆い、奇妙な鳥の鳴き声が響く。服はボロボロで、財布もスマホも何もない。いや、それ以前に、ここはどこ? 夢? いや、木の葉の感触、土の匂い、これは現実だ。パニックが胸を締め付けた。頭に浮かんだのは、海外旅行で財布をスられた時の記憶。あの時、私はどうした? 大使館を探し、警察に駆け込み、日本人を頼った。助けを求め、生き延びた。
取り敢えず私は歩いた。
ここがどこなのか全く分からないがそれでもじっとしているよりは良かった。
暫く歩いていると、明かりが見えてきた。
それは、どこにでもあるコンビニエンスストアの看板の明かりだった。
でも少し違和感を感じた。
コンビニエンスストアのようではあるが、自分の知っているコンビニではない。
取り敢えず中に入ってみることにした。
日用品から本、食べ物に冷凍食品、それにドリンク類も置いてある。
でも決定的に違うところはどの商品も見たことのないパッケージだった。
私が入ったあとに、お客さんが来た。
私はその人物を見た時に確信した。
ここは異世界だ。
人間の姿ではなかった。
角と羽の生えたモンスターだ。
私はこの世界で何も持たない言わばエイリアンだ。
だが、私はそれほど焦りはしなかった。
全くの未知の世界で生きていくためにはそれなりの準備がいる。銀座のクラブでNo.1になるまでもそうだった。遠回りなことが後々活きてくる。
銀座のクラブでの下積みや様々な経験が建設的な思考を作り上げた。
(1からスタートだな……)
だが、不思議と焦りはなかった。
ここでは、誰も私を知らない。
名前も、肩書きも、価値も。




