#4
嘘だろ?
あの木田が泣いてるなんて嘘だ。
俺の手を祈るように両手で握り締めて
まるで懺悔するようにその手を頭に押し付けて、泣いている。
「なぁ…関係あるのかよ?中坊だからこれが本当の気持ちじゃないって、なんで由羅にわかんの?こんなに近くに居て、すっげぇドキドキして止まんなくて、それでも全然足んなくて、もっと傍に居たくってさ
毎日会ってんのに、毎日好きになってくし。由羅が俺の傍に居なくなった途端にどうしようもなく寂しくなる。不安で堪らなくなる。さっきまで一緒に居たのに無性に会いたくなる。嫌われんの恐いくせに嫌われてでもいいから俺の傍に居てもらいたくってこんな事してる。最低だって自分でも分かってんのに離れたくないんだよ!それでも由羅はこれが恋愛感情じゃないって言えんのかよ!?たかが中学生の俺が本気の恋してんのに、年のことばっか気にして俺の本質なんて見てもくれない。酷いのは由羅のほうだろ…傷付いてるのは俺のほうだ!お願いだから離れていかないでよ…嫌だよ…俺を見て…見てよ由羅…」
「…木田」
それは号泣と呼んでもいいくらいの涙の量だった。
声を押し殺しても聞こえてくる嗚咽混じりの泣き声。
ギリギリと両手で握り締められた手の指先は若干紫色に変色し始めていた。
「……卑怯だろッ!…由羅は…。俺が、どんなに頑張っても足掻いても願っても叶えられないモノを引き合いに出して、それで俺の事を簡単に遠ざける。近付きたいのにッ、俺にとったら一生掛かっても無理な事を…条件にする…。ならもうどうしろって言うんだよッ!!由羅に意識してもらえるんなら何だってやってやろうって思ったんだよ!…だけど……結局は由羅はどんどん俺から離れていこうとする。……なんで俺は由羅と同じ歳じゃないの?なんで俺は由羅より年上じゃねーの?なんで由羅は俺より早く生まれたの?年下ってだけで…由羅に見てもらえない!男ってだけで拒絶される!んなのは嫌なんだよ!由羅、由羅、由羅!ちゃんと俺を見てよ!あんたに本気の恋してるんだっていい加減理解しろよッ!!」
うるさい
うるさい…
あー、もう。
何が恋だよ馬鹿馬鹿しい
テメーの感情だけで喚くなよ欝陶しい
ウザイウザイウザイ!!
耳障りなんだよ
黙れよ なぁ 木田 嵐
「………分かった…」
「……由羅?」
「…お前と付き合えばいいんだろ?そうすればイジメも止めてくれるんだろ?」
握りしめられていた手をゆるく握り返してみた。
「…え?は?えっ…由羅…本気で…言ってんの?」
「まず俺の質問に答えろ、どうなんだよ?止めるのか止めねーのかどっちだ。テメーの返答次第だ木田」
「…そん…なの…答えなんて1つに決まってる。イジメはやめる。当たり前だろ?だってそれが当初からの条件だったし。でも…ホントに?由羅?本当に俺と付き合ってくれんの?嘘じゃないよね?俺の恋人になってくれるんだよね?嘘だって言ってももう遅いよ?」
「…ああ」
「マジ…で…信じらんねぇ…スゲェ嬉しい…。由羅が俺の恋人とか…。ずっと欲しかった由羅が…俺の…」
いきなり木田に手を引かれて俺は木田の胸に頭をぶつけた。
「…分かってるよ由羅。由羅のその発言が本心じゃないことくらい。俺が怖くて仕方なく付き合ってくれるんだろ?でも、それでもいい。いいよ。今は、俺の事好きじゃなくても…。絶対に好きにさせてみせるから。スゲェ大事にするし、イジメも絶対に止めさせる。ううん、今日から他の連中なんかに由羅は触らせない。由羅がずっと傍に居てくれんなら俺何だってするよ。由羅、大好き。愛してる…愛してる」
「……ん」
ギュウと抱き込まれた恰好のまま俺は木田の胸でひそかにほくそ笑んだ。
何がアイシテルだ?阿呆か。
頭良いのに脳みそ腐ってんじゃねーのコイツ?
けど、これでもう虐められる事は無くなった。
あとは冬休みまで待つだけ。
あと少しの辛抱だ。
それまで付き合ってやるよ
お前のそのお遊びに。
「木田」
「嵐って呼んで由羅。もう俺達恋人同士なんだし、名字で呼ばれると何か遠いみたいで嫌だ」
まだ抱き締められたままだがもうそれもどうでもいい。
とにかく今は…
「………嵐、俺に相良行ってほしいか?」
「ッ!由羅、相良行ってくれんの?」
「お前はどうなんだよ?」
「俺は…由羅が近くに居ないなんて考えらんねぇ。由羅が相良行ってくれたら毎日会えるし…そこにして由羅お願い」
「…………なら、そうしよっかな…」
そう言ってやったら木田はバカみたいに泣きながら笑った。
嘘みたいだ。夢みたいだ。と呟きながら。
そうだな木田
お前にとっては夢かもな。
これは現実なんだとお前が気付く日まではな。
「嵐、これから俺は受験あるからあんまりお前とも会えなくなると思う。だけど俺は相良入るからさ、それまで恋人っぽい事は控えないか?高校入れば多分時間も余裕出てくるし、な?」
「…由羅なら勉強しないでも相良余裕で入れると思うけど…」
「けど万が一って事もあるだろ。お前にかまけて俺が相良落ちてもいいのかよ?」
「……それは、そーだけど…」
納得出来ないと言う顔をする木田に俺は甘い飴をやる事にした。
「なぁ嵐、俺の事、好き?」
「…散々言ってんのにまだ聞くの?好きだよ、由羅の事考えすぎて他の事が見えないくらいにはね」
「ならさ、俺とキスとかしたいとか思ったりもすんの?」
「んなの…当たり前でしょ…。由羅?ゆ…ンッ」
あーあ。
初めてが男となんてマジで最悪。
したことないから口と口をただ引っ付けるだけ。
それでも木田にとっては大変な出来事だったようで、すぐに口を離した俺を暫くは茫然自失したかのように見つめ続けていた。
「嵐?えっと、大丈夫か?」
木田の目の前で手をヒラヒラさせていたらその手を掴まれていきなり備え付けのベッドへと押し倒された。
「ッ!木田!ちょっと待て!」
両手首を押さえ込まれたままの状態で俺はそう叫んだ。
「………由羅…」
それは初めて聞く声音だった。
「木田…」
欲情にトんだ木田の瞳。
ゆるゆると蠢く瞳の奥の熱を捉えてしまう。
ゾクリと背筋が震えた。
恐い。
散々コイツを恐いとは思ったけど、今の恐怖はまたベクトルが違う。
本能で逃げろと体が暴れる。
「由羅、酷いね。自分が煽るような事したくせに、逃げようとするんだ?今のキスで俺、勃っちゃったのに。ねぇ慰めてよ」
「い、嫌だ!やめろ!」
「あとさ、名前、木田じゃないでしょ?ねぇ由羅?……その唇で、その声帯で俺のコト、ちゃんと呼んで」
下唇に木田の指先が触れてくる。
強引に口を開けさせて俺の舌へ指が触れる。
「ッ…あら…し」
「うん。…もっと」
「あらし」
「ゆらぁ…好きだよ…大好き」
そうして俺の手を掴むと木田は自身の下半身へその手を導いた。




