#3
木田に命令された奴らは倒れている奴を放って自分達の教室へと素直に帰っていく。
木田の命令は絶対だ。反抗する者なんか居るわけがない。
でも…
(仲間だろ…なんで)
残ったのは俺と木田、そして地面に疼くまる後輩1人。
後輩はどうやら木田にボールをぶつけられたらしい。
俺はどんなに当てられてもこんな風になっていないと言うのに、コイツはたった1回当たっただけでこの様か。
ただ単にコイツが弱すぎただけならいいけど、木田のせいなら…と考えて俺は身震いをした。
やはり関わりたくない。木田は恐い。
「邪魔」
木田が面白くもなさそうにその後輩の所へと向かうと情け容赦なくその体を蹴り上げたのだ。
「なっ!?」
空中に少し浮いた後輩はすぐに地面へと落下して仰向けになり、その上から木田が顔面目掛けて足を振り下ろした。
ゴッ!と鈍い音が辺りに響く。
「“ センパイ ”は、いいけど“ ユラ ”は、だめ」
しかも2回も呼ぶなんて有り得ないと言いながらそいつの顔面を何度となく蹴っては木田は独り言のような声で死ねよと呟いていた。
俺は自分の身体が震えて逃げ出す事も出来ずただ木田の暴力だけをじっと見つめていたのだが
不意に身体が宙を浮いた感覚にやっと思考が動いた。
「な、なんだよ!?」
いつの間にこちらに来ていたのか、木田は俺の腕を掴み上げこの場から俺を連れ出そうとしていた。
「ちょ、木田!痛い!嫌だ!」
「文句言わないで由罹先輩。ゴタゴタ言ってるとそれ以上にケガが増えるだけだよ?」
だから、大人しく言う事を聞け
暴力で相手を捩伏せるのが木田のやり方。
「どこ、行くんだよ」
「保健室。先輩ケガしてるし、ちゃんと治療しないとダメっしょ?」
「俺よりアイツ運んでやれよ。お前のせいで俺より酷い有様になってるぞ」
「は?何で俺があんなゴミ片付けなきゃいけないの?冗談やめよーよ由羅先輩」
「ゴミって、仲間だろ?……それに、俺のことはお前がやったくせに…」
「俺は先輩に手は出してないよ。やったのは他の連中。」
「やらせたのはお前だろ!!……何なんだよ…ホント、何なんだよお前!!」
俺がそう叫ぶと木田は不意に歩みを止め振り向くと、屈み込んで俺の視界をその顔で覆った。
一瞬ビクつく俺に対して、奴はクッと笑いそして睨んできた。
「……ハッ、笑う。今更それ聞くの?俺の気持ちはもう充分伝えてあるっしょ?それとも、まだ足りないの由羅先輩は?あとどんだけ好きって言えばいいの?そんなに聞きたいなら朝から晩までずっと引っ付いて言ってあげるけど?好きだよ由羅、大好きだよ、これじゃ伝わんないの?」
「…ふざけんな」
両手で顔を固定されて俺は俯く事も許されない。
嫌なんだよ
近いんだよ
恐いんだよ
俺はお前が嫌いなんだよ
「ふざけてないよ。俺は本気で由羅の事が好きなだけ。なのに由羅は俺の気持ちなんてちっとも考えてくれないし、年齢とかまだ気にしてるし、いい加減俺も我慢の限界超えちゃうよ?」
「………」
「まただんまり?まぁいいけど、取り敢えず保健室行こっか」
俺は木田に引きずられるようにして無理やり保健室へと連れて来られてしまった。
「そう言えば、由羅先輩って高校どこ行くの?」
「…なんでそんな事お前に言わなきゃいけねーんだよ」
保険の先生が居なかったため木田に手当てを余儀なくされた。
抵抗しても余計な傷を増やすだけだと仕方なく俺は任せるしかなかったのだが、2人っきりだと思ったら吐き気さえしてきた。
断ればよかった。どんなに痣が増えたとしても。
(早く終わってくれ…)
「好きだから」
「馬鹿げてる」
「教えてくれないと今日はずっとこのままだけど?」
ギリッと痣に爪を食い込ませてきた。
糞が。
「…………嶺岸」
「嶺岸?聞いたこともないよそんなとこ」
救急箱から包帯を取り出しながら木田が眉間に皺を寄せる。
「いらねーよ包帯なんて、そんなたいしたケガしてないし」
「由羅、質問に答えて」
包帯を一定の長さまで伸ばした木田はそれを鋏でジョキンと切った。
一々脅さないと会話すら成り立たないのか俺達は。
「………県外だから」
「県外?」
「ああ」
「どこ?」
「………」
これ以上は言いたくないって言ったらその手に持ってる凶器で俺はどこを刺されるんだろうな?
「由羅」
言わないとずっとこのままなんだろうと思い俺は俯きながら仕方なく答えるしかなかった。
「北海道に…あるとこ」
「北海道って…なんでそんな遠いとこ……ハハッなに?…とうとう俺から逃げたくなった?」
物分かりが早いと言うか
そう言えば学年首位だっけコイツ。
「…別に、それだけじゃねーよ」
80%は逃げたいって気持ちだけど。
「なにそれ?俺は反対だよ。そんな遠いとこ行っちゃったらたまにしか会えなくなっちゃうじゃん」
それでもたまに会う気なのかコイツは?
馬鹿馬鹿しいにも程がある。
これ以上お前の捩曲がった恋愛に付き合わされるなんて真っ平ごめんなんだよ。
嘘ばかりだ。本気で好きなわけじゃないくせに。
ただ俺が断ったから気に入らないだけなんだろう。それだけの事なのに。もういいだろう?もう充分楽しんだだろう?
解放してくれ。頼むから。
「由羅先輩、お願いだから考え直してよ。俺の傍に居て。そーだよ、嶺岸なんて遠いとこやめて相良にしなよ」
「相良なんて地元じゃねーか」
しかも不良だらけって有名な高校だ。
俺なんかが行ったら格好の餌食になるだけだろ
そんなとこ誰が行くもんか。
「そうだよ?由羅先輩は地元の高校行って。したら俺が毎日ガッコ終わりに迎え行けるし、ね?そーしよ?相良には俺の知り合い居るし、虐められんのが恐いなら俺が絶対守るから」
どの口がそれを言うんだ。守るだって?散々俺を虐め抜いた奴が言うセリフかよ。
「嫌だ」
「由羅先輩」
木田の包帯を巻く手が止まる。
「第一…なんで俺がお前の言うこと聞かなきゃいけない?俺の将来は俺が決める。口出してくるなよ、…ホント、もうさ、いい加減欝陶しいんだよお前」
抑え切れない感情がつい口に出てしまっていた。
恐怖心もあってか最後は独り言のように小さな声。
でも、もう本当に嫌なんだ。コイツと関わるのは嫌だ。
「……口、出すよ。俺ね、人を好きになったの由羅先輩が初めてなんだよ」
知るかよ。もし仮にそうだとしても、そんな理由でイジメられて付き纏われて言いように振り回されて俺にとってはいい迷惑だ。
触んなよ、手を離せ。気持ち悪い、ヘドが出る。
「いまさら、離れるのは嫌。傍に居てくれないなら閉じ込める。由羅先輩が欲しい。由羅じゃないとダメ、俺はあんたじゃないと恋愛出来ない。由羅にしかもう心も身体も反応しないんだ。どんな卑怯な手を使っても由羅が欲しいし、どんなに嫌われてもいいから俺を見てほしい。いっそ憎まれてでもいいから由羅と繋がっていたいとさえ思ったんだ…だから俺は…」
「なんだそれ………お前頭おかしいんじゃねーの?大体さ、俺達はたかが中学生なんだよ。中学生の恋愛なんてもんを俺に押し付けんな」
そうだ、俺達はまだ恋とか愛とかなんて知らなくても当たり前なんだよ。
よく分かってもないそんなもんに振り回されるような年じゃないんだよ。
そもそも木田の思いだって年相応なんじゃねーのか?
ただそういうもんに憧れて、たまたまその対象が俺で、男だっただけで。
恋愛のれの字だって分かってないかもしれねーじゃん。
なぁ?そうだろ?そうだって言えよ木田…
「人を好きになる理由に年齢なんて関係あんのかよ?」
ぽつりと呟いた声と、ポトリと掌に落ちてきた水滴に気付いた俺は木田を見た。
「…………木田?」




