#2
そして次の日、俺はやっぱり木田達に呼び出され、今度はグラウンドのキックボードの真ん中に立たされている。
「せんぱーい、今日はー、サッカーの練習に付き合ってもらいまーす」
木田の周りに居る連中が俺を取り囲んでそう言った。
「今度、強豪チームと練習試合があってですねー、どーしても勝ちたいんで先輩で練習させてくーださい」
「先輩立ってるだけでいいっすから」
「つーか、動くなよ」
「動いたり避けたりしたら罰ゲームでいんじゃね?」
「あ、それいい!フルチンでグラウンド5周とか」
「やべ~見てるこっちがキツイわー」
「それどっちが罰ゲームなんだか分かんねーよなぁ」
ふざけんな
ふざけんな
ふざけんな
コイツらの頭は歪んでいる。
こんなもの早く終わってくれ。
「俺達はコイツと違って部員じゃないですけど、友達なんで練習付き合ってやるんですよ。ね?友達思いっしょ俺達。だから先輩も協力してね」
木田以外の全員がボールを前に置いて今にも俺に向けて蹴り上げてきそうだった。
「誰からいくー?」
「てか、一斉にやっちゃわね?」
「網じゃねーから撥ね返ってきたら困るだろーが」
「だいじょーぶ、きっと先輩が全部止めてくれるって」
「超人かよ」
下劣な笑い声だけが耳を襲う。
横目で木田を見ても止めるそぶりさえ見せない。
それどころか、静かに、笑っていた。
当たり前だが奴がリーダーだ。
こんな事を言い出したのも木田本人なんだろう。
ここで俺が木田にやめてくれと頼めばきっと奴は止めてくれるはずだ。
だがその見返りは限りなく大きい。
そんな事を言ってしまったが最後、俺が奴のモノになると言う事になるのだから。
一ヶ月前、コイツは俺に
『由羅先輩、好きになっちゃったんで俺と付き合って?』
そう告白された。
あまりに突然で、そしてあまりに突拍子もない言葉に頭の中がフリーズした。
なぜ俺なんかにそんな事を言う?
そればっかりが頭の中を埋め付くし俺は嫌だと直ぐに断った。
今にして思えば罰ゲームで負けて俺にそう言う事になっていたのかもしれない。
だが俺はその考えにも及ばずに間違った解答をしてしまった。
そして、その次の日から今日まで
俺は木田に虐められる羽目になってしまったのだ。
どうすれば止めてくれるんだ?と木田を問い詰めた事もあったけど
『由羅先輩が俺と付き合ってくれるまでやめませんよ?』
笑顔でそう返された。
付き合う?
なんで俺が?
男なんかと?
疑問は尽きず、だからと言って『はいそーですか』と受け入れるわけにもいかなかった。
木田にしてみれば罰ゲームで負けただけなのに告白を断られたのだ。
それが奴の癪に障ってしまったのだろう。
校内でもカーストトップの自分がこんな冴えない奴にフラれたのが気にくわないのだ。
でも俺だってそう簡単にコイツの思い通りにはなりたくないと思った。
どうせあと少しの辛抱だ。
冬まで耐えて、冬休みになれば学校にも来なくて済む。
しかも受験もあるから冬休み明けても3年は殆ど授業には出ない。
学校に来るのはもう極僅かだ。
そうして卒業さえしてしまえば後はこっちのものだった。
「んじゃ1番オレー!」
思考に耽っていた俺の耳にそんな声が聞こえたその瞬間、腹に激痛が走った。
「フッ、ぐッ!」
「ナイッセー!先輩止めるのうまいっすねー?つーか、まぁ敢えて狙った俺のコントロールがすげーんだけどね」
腹を抱えぼやける視界にはボールが目の前をゆっくりと転がっていた。
(ああ、これが当たったのか)
どこか他人事のようにそう思った。
「んじゃ次俺いくわ。……てか、いつまで屈んでるわけ?早く立てよ」
「ヒッ!」
バンッ!と後ろから鋭い音が鳴った。
俺が立ち上がるのを待つ程、コイツらは優しくはない。
当たらなかったから良かったものの
今のが頭に直撃していたら脳震盪でも起こしていたかもしれない。
「ハッズレー、惜しい惜しい!次当ててこー」
そうして次々に向かってくるボールに俺は逃げる事さえ許されない。
徐々に体に痣が出来ていくのが分かった。
「先輩まだ1個も取れてねーじゃん」
「そんなんじゃインハイ行けないっすよー?」
「かわいそうだから全員で撃ってあげようぜ?そうすればいくら鈍臭い由羅ちゃんでも1個くらいは取れんじゃね?」
頭がクラクラする。
ああ、シャツが赤いな。
鼻血出てんのかな?
口も痛いし、中切れてっかもなコレ。つか砂入ってジャリジャリする。
あ、爪割れて血が滲んでら。
制服も埃まみれだし。
またクリーニング出さないとなぁ。
ハハ、もうズタボロだな俺。
「じゃあ由罹先輩いきま…ウァッ!」
いきなり
目の前に居た奴が横へと吹っ飛んでいった。
俺の視界から突如として消えたそいつは地面に倒れ込んで頭を抱えながら悶絶している。
一体何が起きたのか分からない俺に「はい、しゅーりょー」とつまらなそうな声が聞こえた。
「木田…?」
その間違えようのない声に一様が木田を見つめる。
「木田…当てる相手間違ってね?」
仲間の1人が木田にそう問い掛けると木田は笑って
「はい、終わり~。お前らもう帰っていーよ」
と検討違いな返事をした。




