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【完結】鬼ごっこ/執着系クズ(年下)×平凡(年上)  作者: ハタセ
鬼ごっこ/執着系クズ(年下)×平凡(年上)
1/6

#1

【鬼ごっこ】



 淀んだ水を飲んだ。


 「ゲホッゲホッ、うぇっ…」


 そして吐いた。


 「うわっきったねーコイツ吐きやがった」

 「俺の制服に付いたんですけどー」

 「もう着れねーなそれ」

 「せんぱーい弁償してくださーい」

 「財布出して?」


 そう言って寄ってたかって全身を蹴られた。

 夏も終わり、秋も半ばという季節。

 いきなり涼みに行こうと学校裏に設置されたプールに連れて行かれ制服のまま突き落とされた。

 まだ水を抜き切っていなかったそこには藻などが繁殖しており、それはそれは到底綺麗とは言い難い有様だった。

 案の定水を大量に体の中へと溜め込んだ俺は生理的に嘔吐を繰り返し、それを笑われゴミのように扱われた。

 泣きたいけど泣けない。

 痛くても苦しくても辛くても気持ち悪くても。

 ただ1人

 彼がこの遊びに飽きるまで

 俺は泣かない。


 「うーん、じゃあ今日はもう終わりにしよっか?」


 後ろからフェンスに寄り掛かって見ていた彼がやっと声を出した。


 「りょーかーい、じゃあね先輩。また遊ぼーね」

 「俺ら先輩居ないとつまんないですからー」

 「登校拒否とか寒い事しないでくださいねー」


 彼の命令を受けた全員が俺を嘲笑い、そして最後に手足を持たれ『せーの!』と言う掛け声でまたプールの中へと投げ落とされた。


 濁った水中で濁った太陽の光だけが見えた。


 「う……うぇっゴホッ、おぇ」


 どうにかこうにか水から這い上がりプールサイドへと身を投げ出す。

 自分が臭い。寒い。

 学ランの上だけは教室に置いてきたからシャツだけで済んだのがまだ不幸中の幸いか…。

 今日はもう帰ろうかと悩んでいた所に頭上から声がした。


 「先輩おつかれさま~」


 その声と同時に白いふわふわとしたタオルが俺の視界を舞った。


 「ちゃんと拭かないと風邪引きますよー」


 俺はそれを受け取ると頭からガシガシと水を拭い、彼を睨んだ。


 そう、唯一、自分からは手を出さず

 さもただの傍観者とばかりにいつも俺を後ろから観察する人物。

 しかし、彼が事の首謀者なのだ。

 このイジメのリーダーである木田きだ あらし

 俺の一個下の後輩である。

 後輩と言っても彼とは何の接点もない。

 部活はおろか彼と初めて言葉を交わしたのはつい一ヶ月前の事だ。

 木田はイジメられている俺を一仕切り見終えると自分だけが残り、いつもこうやって俺の後始末を手伝っている。

 首謀者であるはずの彼が。


 今やこんな状況になっているのは、きっと俺のミス。


 だけどあんな選択をするくらいならイジメを受けた方がまだマシだと思えた。


 「先輩シャツ透けてますよ。寒くないですか?て、寒いよねー?震えてるし。まだ授業あるけど、まさか帰らないよね?俺のジャージ着る?先輩相手なら喜んで貸しますよ?」

 「必要ない。自分のがある」

 「先輩のあのジャージもうボロボロじゃないですか着れたもんじゃないでしょ」

 「………まだ着れるから」


 ボロボロにしたのはてめーらだろーが。

 ジャージだけじゃない。机も教科書もコイツらのせいで何もかもがゴミと化している。


 「残念だなぁ、一時だけでも先輩が俺とタメになると思ったのに」


 大げさに溜息を付く真似をする木田を睨むと「冗談ですよ…でも半分は本気」と笑われた。

 だから嫌なんだ。

 学年でジャージの色が違うこの中学で、自分の学年とは違う色のジャージを着てみろ。注目の的だ。

 まぁ今や誰も俺なんかを相手にしないから今更どうなったって構わないけど。

 俺が年下からイジメを受け始めてから俺の周りから段々と人が消えていき、最後には自分だけとなった。

 人が集まる空間と言うのは、その集まった人間性で何となく分類が決まるものだ。

 それは学年によってクラスによって大体の程度が決まる。

 俺達の学年はと言うと割と真面目で大人しい人間が多かった。

 そして1つ下の学年は騒がしく楽しい事が大好きな人間が多かった。

 だから、今やこの学校は2年生である彼等が仕切っている状態だった。

 そしてその代表格である人物に目を付けられてしまったのが俺。

 この狭い世界の頂点に立つ男によって俺の世界は破壊されたのだ。


 年上であるはずの3年は2年が恐くて何も出来ず、ただ彼等の逆鱗に触れないように生活をする事で精一杯。

 尚更受験も重なって俺を助けようとする奴なんて現れるわけもなかった。

 だがそれは当然の成り行きだ。

 俺が逆の立場であったなら自分も見て見ぬ振りをしただろう。

 誰かが犠牲になってさえいる間は自分にその役目は回って来ないのだから。

 自分さえ良ければそれでいい。

 人間なんて追い詰められれば誰だってこの選択肢を取るはずだ。

 俺だって大概、人間として出来てはいないのだ。

 だけど、小さな俺のプライドがまだその境界線にしがみ付こうとしている。

 年上なんだと、たかが1つ上なだけでも、俺はそこに縋っていた。


 年下のジャージを着る事がどれほど自分自身に絶望を与えるかは分かっている。理解しているからこそ、そんな提案は即座に却下した。


 「じゃあ保健室行きますか?俺が連れてってあげるから」

 「要らない!離せっ!」


 不意に二の腕を掴み上げられ咄嗟にそれを振り払った。


 「………あっそ。じゃーね先輩。そのタオルはあげる。明日はもっと楽しい遊びしましょーね」


 不機嫌そうな顔から直ぐに笑顔に戻った木田はさっさとその場から消えてしまった。


 「遊び?……虐めの間違いだろ」


 貰ったタオルは絞れるほどになっていたけど、こんなものもう要らないとそのタオルはプールへと投げ捨てた。

 お前から貰う施しなんて俺には必要ないんだ。

 寒さで震えているのか恐怖で震えているのか分からない体を引きずりながら俺は教室へと戻っていった。



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